第28章 日常13:夢なら醒めないで…
僕が、HIMEとしての最後の出演作に、あの作品を選んだことを、今更ながらに後悔した。
だってあの作品さえ選ばなければ…、もし別の作品を選んでいたら、ここまで翔くんを苦しめることは無かった筈だもん。
それに僕自身も…
「なんか…、ごめんね?」
涙に濡れた翔くんの手を握ると、翔くんは首をブルンブルンと振って、
「智くんが謝ることじゃないよ。そもそも俺があの現場に行ったのが悪いんだし、仕事なんだ…って、ちゃんと割り切れてなかったし…」
それは僕だって同じだよ…。
僕があの時…男達に滅茶苦茶にされながらずっと考えてたのは、翔くん…君のことだったから…。
君のことばっか考えてたから、だからどれだけ酷いことされても、僕は耐えられたんだよ?
「ねぇ、翔くん? 僕ね、HIMEとしてのお仕事が終わったらって、ずっと決めてたことがあるの。聞いてくれる?」
「…なに?」
ふふ、翔くんたら…泣き過ぎてお顔酷いことになっちゃってるよ?
せっかくのイケメンも、これじゃ台無しだ(笑)
「あのね、僕ね、いつから…ってのは分かんないけど、翔くんのことが好き」
「え…?」
「気付いたらね、いっつも翔くんのことばっか考えてんの。離れてる時間だって、夢の中でだって、ずっと翔くんのことが頭から離れないの。それくらい翔くんのことが好き」
好きで好きで、もう翔くんのこと以外何も考えられないくらい、翔くんが好き。
ずっと胸の奥に抑え込んでいた感情が溢れ出して…、気付いたら僕は翔くんの胸に飛び込んでいた。
「智…くん?」
キス一つするのだってあんなに動揺してた翔くんだから、戸惑うのも無理ないよね?
「ごめんね…? 無理なら無理って言ってくれて良いから…」
この手を振りほどいてくれたって良いから…
僕は、僕の想いを伝えられただけで、それだけで十分だから…
事故むいなキスだったけど、それだけで幸せだから…