第28章 日常13:夢なら醒めないで…
「自分で望んだわけじゃないけどさ…、思いがけずスタッフさんに声をかけられた時は、正直嬉しかった。HIMEちゃんの最後の作品に、俺なんかが関われるなんてさ、普通に考えて無いことじゃん?」
確かにそうだよね…
あの場にいたマスクマンさん達は、皆ちゃんとしたAV男優さん達だもん。
素人さんなんて、多分翔くんを除いてあの現場には一人もいなかった筈。
「でもさ、いざその場に立ったら…、真っ白なウェディングドレスを引き裂かれて、必死で抵抗するHIMEちゃんを見ちゃったら、何だか良く分かんねぇけど、泣けて来ちゃってさ…」
「で、でもあれはお芝居だし…」
ちゃんと台本だってあったし、ある程度の流れは僕だって把握してたし、抵抗するのだって、確かに本気で強かったけど、半分お芝居だったのに…?
「芝居だって分かってるよ? 男達に滅茶苦茶にされて、それでも喘いでたのも、全部演技だって分かってたよ? でもさ…、悔しかったんだよ…」
膝の上に握った手の上に、ポツリと雫が落ちる。
え…、翔くん…泣いてる…の?
「すぐ傍にいたのに…、手を伸ばせば助けられる場所にいたのに、滅茶苦茶にされるのを黙って見てることしか出来ないのが、悔しくて堪んなかったんだよ…」
あっ…
「だから撮影が終わった後、君に声をかけられても、どんな顔したら良いのか分かんなくて…」
「それで…逃げ出したの?」
「ちゃんと言おうと思ったんだ…、HIMEちゃんに…ではなく、智くんに“お疲れさま”って…、でもボロボロになった君の姿見たら、とても言えなかった…」
あの時の僕は、やっぱりハッキリとは覚えてないけど、きっと酷い格好だったんだろうね…
「そう…だったんだね…」
僕は翔くんがそんな風に思ってるとも知らずに、軽蔑されたんだって勝手に誤解して、それで勝手に拗ねてひねくれて…
翔くんへの想いを、勝手に終わらせようとしてた。