第5章 日常2:彼
僕と櫻井君は友達でもなければ、ただのバイト仲間なのに、勝手な想像(妄想?)すんのはおかしいじゃないか。
僕は、普段じゃありえないくらいテキパキと仕事をこなすと、終業時間を待って逃げるようにバイト先を後にした。
いつもよりは一時間早い時間だ。
でも仕方ない…、だって明日は撮影の予定が入ってるんだもん。
色々と準備だってしなきゃなんないし、ムダ毛の処理とか…身体のおメンテも必要だからね。
それに、撮影の日って、大抵朝か早いから、それまでに少しでも寝て起きたいし…
じゃないとさ、せっかく念入りにおメンテしたって、肌に出ちゃうからさ…
だから睡眠は大事なんだ。
僕は大急ぎでアパートに帰ると、冷凍庫に小分けにしてストックしてあったご飯とカレーのタッパーを取り出し、電子レンジにかけた。
その観に、取り寄せただけで未開封になっていたダンボールを開ける。
中には、ピンクやら赤やら水色やらの、レースやリボンで飾った“HIME用”の下着と、何とも味気ない“僕用”のボクサーパンツが詰まっていて、その中から“HIME用”の下着だけを取り出すと、撮影の時だけに使うリュックの中に突っ込んだ。
「後はメイクボックスと、ウイッグのケースと…」
必要な物だけを玄関に纏めて行くと、思ったより大荷物になってることに、ちょっとうんざりする。
「やっぱ今度から長瀬さんの車に積んどいて貰おう…」
僕は溜息を一つ落としてから、レンジの中でグツグツしているご飯とカレーを取り出し、テーブルの上に並べた。
「いっただきまーす♪」
両手を合わせ、温めたご飯をカレーの入ったタッパーの中に突っ込む。
これだと洗い物が少なくて済むから、時間のない時は楽で良いんだよね♪
…ってゆーか、ダメじゃん…
キスだってするのに、カレー臭かったらドン引きされちゃうよ…
仕方ない、念入りに歯磨きしよーっと…
『彼』ー完ー