第27章 日常12:僕、さよなら…、だよ
「えぇ〜、困るって…」
引っ越したばっかのマンションの片付けだってまだ全部は済んでないのに、更に一週間も…なんて、絶対無理!
って言ったんだけどね…
勿論、父ちゃんは退院した翌日から仕事に行くって言って聞かなかったけどね?
それにド素人の僕に、大事な仕事は任せられないって…
信用されてないことは分かってたけど、そこまで言う?って感じでさ…
それでも、母ちゃんに押し切られ、渋々一週間だけ自宅での療養を受け入れた。
僕だってさ、出来ることなら断りたいよ?
でも母ちゃんに頭を下げられちゃったらさ、嫌って言えなくて…
おかげで僕は良い迷惑なんだけどさ…
まあでも、HIMEとしての仕事を終えた後、レンタルショップのバイトも辞めちゃったし、ずっと身体を動かすこともなかったから、運動不足解消には丁度良かったけどね(笑)
それに、家に一人いたって、たまに和と電話で話すくらいで、ろくに会話もしてなかったから、現場に来る職人のおっちゃん達と話をするのは楽しかったし、僕が知らない父ちゃんの話だって聞けたし…
悪いことばっかじゃなかった。
僕は仕事に行くのが、“超”こそつかないけど、楽しくはあった。
そうして、父ちゃんの代理も後二日になった頃、外装工事を請け負っていた大工のおっちゃんが、
「ボウズに客だぞ」
と、室内作業をする僕を外から呼んだ。
僕にお客さんて、誰だろ…
内心訝しみながら、頭に巻いたタオルを取り、首に巻いたタオルで汗を拭いながら、僕は庭先へと降りた。
そこには白いシャツを着た人が、僕に背中を向けるように立っていて…
「あの…」
僕が声をかけると、その人はゆっくり僕を振り返り…
「久し…ぶりだね…」
少し照れたように笑った。
『僕、さよなら…、だよ』ー完ー