第27章 日常12:僕、さよなら…、だよ
でもそうも言ってられず…
「あ、姉ちゃん? 僕…、智だけど…」
「あ、智…? 実は今ちょっと取り込んでて…」
コール音が止み、返って来た懐かしい声の後ろで、誰かの啜り泣くような声がして…
瞬間的に“最悪なことが起きたんだ”と思った僕は、
「す、すぐ行くから…、今からそっち向かうから…」
咄嗟にそう言って電話を切った。
手が勝手に震えた。
ううん、震えてるだけじゃなくて、指先が凄く冷たくなって、微かに痺れてる。
「おい…」
松本さんが片手でハンドルを操りながら、片手で僕の手を握り呼びかけてくれるけど、答えようにも喉が貼り付いてしまったみなくなって、上手く声が出せない。
「どう…しよう…、僕、どうしたら…」
それでもどうにか掠れた声で言うと、僕の手を握っていた松本さんの手に力が入った。
「落ち着け。まだそうと決まった訳じゃないんだろ? それに、仮に“もしも”のことがあったとして…、お前がしっかりしないでどうする」
“もしも”のことなんて考えたくない。
でも、でも…
電話の向こうで聞こえた啜り泣きと、父ちゃんの名前を呼ぶ声は、確かに母ちゃんの声だった。
どれだけ離れていたって、どれだけ会わない時間があったって、僕が母ちゃんの声を忘れるわけがない。
なのにしっかりしろって言われたって、僕はどうしたら…
僕は泣きそうになる気持ちをグッと堪えて、窓の外を流れる景色に目を向け、唇をキュッと噛んだ。
その間も、松本さんはずっと僕の手を握っていてくれて…
「着いたぞ」
車が病院の駐車場に入ったになって漸く、僕の手から離れて行った。
「ありがと…ございました…」
僕は松本さんにお礼を言うと、松本さんのおかげで少しだけ温かさを取り戻した手でシートベルトを外した。
「礼なんかいらないから、さっさと行け」
松本さんはそう言うけど、僕が泣かずに済んだのは、松本さんがずっと僕の手を握っていてくれたから…
だから僕は…