第27章 日常12:僕、さよなら…、だよ
「僕、ちょっと見て来ます」
松本さんを信用しないわけじゃないけど、やっぱり自分で確かめないと…
僕は今度こそ車を降りると、懐かしささえ感じる実家の門をググッた。
インタホーンを鳴らし、
「母ちゃん、いないの?」
ドアを叩いてみるけど、松本さんの言う通り、反応はない。
「誰もいないのか?」
いつの間にか僕の後ろに立っていた松本さんが、玄関から見える庭先へと視線を向けた。
「みたいです…。あ、でも僕鍵持ってるんで…」
一応、こんなこともあろうかと思って、普段は持ち歩いたりしない実家の鍵を持って来たことを思い出した。
僕はポケットから取り出した鍵で玄関のドアを開けると、自分の家だだてのにも関わらず、
「お邪魔します…」
と声をかけてから家の中に入った。
「母ちゃん? いないの?」
仮に、松本さんが声をかけた時には寝てたとしても、この時間なら母ちゃんは起きてる筈…なのに、リビングにも寝室にも、キッチンにも、どこにも母ちゃんの姿はなくて…
やっぱり父ちゃんの身に何かあったんだ…
一瞬不安が過ぎったその時、
「おい、これ…」
松本さんが僕に向かって一枚のメモ用紙を差し出して来た。
そこには母ちゃんの字で、町で一番の大きな病院の名前が書いてあって…
嫌な予感が当たったのかもしれないと思うと、僕の目の前が真っ暗になった。
「おい、大丈夫か?」
母ちゃんの書き置きを握り締めたまま、足元をふらつかせた僕を、松本さんの腕が咄嗟に抱きとめてくれる。
「あ、は、はい…。あの、僕…、どうしたら…」
予想はしてた。
けど現実になるなんて思ってなかったから、どうして良いんだか全く分からない。
「とりあえず病院へ行ってみよう。それから、お袋さん以外に連絡のとれる相手に連絡をとって、それから…」
しっかり思考停止状態の僕に、松本さんがテキパキと指示を出す。
けど、僕の思考回路は全く動こうとしないし、身体だって鉛が着いたみたく重くて、動かすことすら出来ない。