第26章 日常11:さよなら…言わなきゃだめ?
「え、さと…し? やだ、ちょっと、泣かないでよ…」
え…?
和に言われて、僕は自分の頬を手で撫でた。
あ…、ほんと…だ。
「泣くほど好きだったのか? 翔のことが…」
「分かんない…、分かんないけど…」
翔くんのことは確かに好きだった。
最後の撮影が終わったら、告白だってしようと思っていたことも事実。
その翔くんに会えないから…、翔くんが全部知ってて、それを隠してたから…、だから悲しいんじゃない。
勿論、それだって悲しいんけどさ…
でもだからって涙が出るんじゃない。
なのにどうしてだか涙が溢れて止まらないよ。
「ねぇ、従兄弟なんでしょ? 元々は、アンタが大事な資料机に置いとくから…、だからこんなことになっちゃっでんじゃん…。何とかしてよ…」
和が松松さんに掴みかかる勢いで言うのを、相葉さんが必死で制止する。
「何とかって言われても….、俺も連絡が取れない状態だし、家にも帰って無いみたいだし…」
どうしようもないんだよ、と松本さんが肩を落とす。
「ご両親は? 流石に何か知ってんじゃないの? ほら、行先とかさ…」
無駄だよ。
翔くんのご両親は出張で海外に行ってるって言ってたもん。
だからご両親に聞いたところで、きっと無駄に終わる。
だったら…
「もういいよ…」
もう終わりで良い。
「何言ってんの?」
「もう会わない方が良いんだ」
「でも…」
その方がお互いのためにも、それから僕自身のためにも良いと思う。
だからもう良いんだ。
「終わりにするから…」
翔くんにも、翔くんを好きになった僕の気持ちにも、ちゃんとさよならするから…
ちょっとだけ時間かかるかもだけど、いつかちゃんと…
翔くんを好きだったことが、いつか良い思い出に変えられるように、ちゃんとさよならするから、だから…
「もうちょっとだけ泣いても良い?」
泣きたいだけないたら、その後はちゃんと笑うから…
だから今だけ、ごめんね…
『さよなら…言わなきゃだめ?』ー完ー