第26章 日常11:さよなら…言わなきゃだめ?
沈黙の時間が続く。
凄く凄く、重くて苦しい、沈黙の時間が、暫くの間続いた。
「コーヒー…、入れるね? あ、お腹は? 良かったらハンバーガー…あるけど…」
最初に口を開いたのは、やっぱり相葉さんだった。
普段、和に煩いって怒られるくらい、お喋りな相葉さんだから、きっと黙っていることに耐えられなかったんだと思う。
ってゆーか、そのハンバーガーって僕が社長さんに貰った物だよね?
いいけどさ…、どうせ僕一人じやそんな大量のハンバーガ、とても食べきれないし…
「頂こうか…と言いたいところだけど、俺今食事制限しててさ…」
「あ、そっか、そんな時期なんだね…。だったら仕方ないか…」
食事制限ってのがどんなもんなのか、僕にはさっぱりちんぷんかんぷんだけど、ストイックが代名詞の松本さんらしいかも。
「じゃあ…、コーヒーだけ入れ直すね?」
複雑な笑顔のま席を立った相葉さんが、無言でキッチンに立つ。
暫くすると、リビングにコーヒーの芳ばしい匂いが漂って来て…
その匂いを嗅いでいると、少しずつ気持ちが落ち着いていくような、そんな気がした。
あくまで“気がする”だけなんだけど…ね。
「はい、どうぞ。あ、智はちょっとぬるめにしといたから… 」
「ありが…と…」
僕が猫舌だってことを知っている相葉さんは、出してくれるコーヒーにすら優しさを感じる。
そう言えば…
翔くんとお茶した時とか、お互い冷たい物を選ん出しまうから、僕が本当は猫舌ってことも、結局言わないままになっちゃったな…
あ、それから映画見に行く約束もしてたけど、多分もう無いよ…ね。
ホラー映画だったから、本当は全然怖くないのに、怖がるフリして翔くんに抱きついちゃおうかって思ってたのにさ…
あと、夏祭りも行こうって言ってたっけ…
リンゴ飴買って、たこ焼きも買って、綿あめは半分こして…
金魚すくいだってしたかったのにな…
全部叶わなくなっちゃった。