第25章 scene5:チャペル
背中でホックを止め、ウエストのブルーのリボンを結ぶと、鏡の中にいるのはもう僕ではなく、結婚式を待つ花嫁さんそのもので…
自分だと分かっていても、うっとりと見蕩れてしまう。
「座って?」
「は…い…」
僕は鏡に映る自分から目を離せないまま、ドレスの裾を踏まないようゆっくりと腰を下ろした。
緩めのアップスタイルに纏められたウィッグを被り、そこに小さなティアラと一体になったベールが付けられると、
「うわ…ぁ…」
僕の口から思わずため息が漏れた。
だってさ、凄く素敵なんだもん。
でも…
「どうかした? あ、何か気に入らんないとこでも…?」
ほんの一瞬…なんだけど、表情を曇らせた僕を、斗子さんが鏡越しに覗き込む。
「ううん、そうじゃないの…」
そうじゃないんだ…
「せっかくこんなに綺麗にして貰ったのにさ、台無しにしちゃうのが申し訳なくて…」
きっと数時間後…ううん、もしかしたら数分後には、こんな綺麗な姿ではいられなくなる。
それを考えると、悲しくなっちゃうってゆーか…
「そうだわ、HIMEちゃんのスマホ貸して?」
「僕…の?」
斗子さんの考えが分からないまま、僕はカバンの中からHIME専用スマホを取り出すと、それを斗子さんに手渡した。
「この間写真撮ったじゃない?」
「うん…」
「でもあの時は試着だけだったし、メイクも簡単なものだったから…」
あ、そっか…、確かにそうだよね。
「ふふ、撮って?」
僕は足元に用意された靴に足を入れると、やっぱりドレスの裾を踏まないよう、ゆっくり立ち上がってから、壁の前に立った…は良いけど、どんなポーズが良いんだろ?
僕があれこれ悩んでいると、
「はい、これ持って?」
斗子さんがブルーと赤い花で造られたブーケを手渡してくれて…
「わあ、可愛い♡」
僕はブーケを手に、思いっきり可愛いHIMEポーズを取った。