第4章 日常1:僕
そうして始まった“僕”と“HIME”の二重生活(そんな大層なモンでもないけど…)だけど、困ったことが一つ…いや、二つかな…
それは、僕の本業に関してだ。
何度も言ってる通り、僕の本業はレンタルビデオ店の店員。
…ってことは、当然沢山のDVDを扱うわけで…
その中にはAVだってあるわけで…
ただ、AVの中でも同性同士ってのは割と少なくて、その大半が女性同士…所謂“レズモノ”が殆どで、男性同士…つまり“ホモモノ”は極めて少ない。
18歳未満立ち入り禁止コーナーの片隅に、ちょこんと…それこそ、よっぽど探さないと見つからないくらい、存在感なく並べられている。
だから安心してたんだよね…
僕の出演作品なんて、レンタルビデオ店に並ぶわけないって。
だって“僕”だよ?
そりゃ世の中には色んな趣味の人がいるけどさ、僕みたいに、どこにでもいるような地味で、平凡な男がセックスしてる姿なんて、誰も興味ないって…
そう…“僕”ならね?
でも「HIME」は違う。
だって「HIME」はAV界のアイドル女優なんだから…
僕は店長さんから渡されたダンボールの中に、「HIME」の文字を見つけた時には、思わずダンボールをひっくり返してしまいそうなるくらい、驚いた。
一応疑ったけどね?
“僕”である筈がないって。
でも見間違いなんかじゃなかった。
パッケージにデカデカと書かれた「HIME、降臨♡」の文字と、そして素肌も露わに、巻き毛を指に絡ませ、アヒル口さながらに唇を尖らせた僕が、そこには写っていた。
僕は驚きのあまり、DVDを持ったまま立ち尽くしていた。
そんな時だった。
着い一週間前にバイトとして入って来た彼…、櫻井君に初めて声をかけられたのは…
『僕』ー完ー