第22章 日常10:僕、決めた!
でもさ、現実を目の当たりにすると、どんなに強く決心したと思っていても、多少は揺らいでしまうわけで…
和と別れ、長瀬さんに連絡を入れてから事務所に寄った僕は、社長さんと長瀬さんを前に、一回り身体を小さくしてしまう。
だってね、二人共怒ってはないんだよ?
なのに凄く…、今まで僕に見せたこともないような、すっごーく難しいお顔をしてるんだもん。
しかも二人して資料片手に、コソコソお話ししてるしさ…
そんな状況で萎縮しない方がおかしくない?
それでも意を決して、
「あの、それで僕…」
言いかけたその時、社長さんが手に持っていた資料を、テーブルの上に広げた。
「これ…は…?」
大体の予想は、和からも話を聞いていたし、何となくだけど出来てた。
でもまさか現実になるとは、僕だって思ってなくて…
「Youの話は分かった。辞めるなら辞めて貰って構わないよ? でもそのまえにちゃんと仕事して貰わないとね?」
僕は恐る恐るテーブルの上に広げられた資料に視線を落とした。
「えと、これって…」
「Youが好きなの選んで良いから」
「え、でもこれ…」
テーブルの上の資料をいくつか手に取ってみるけど、そのどれもがSMプレイを含んだ龍辱モノか、集団レイプモノばかりで…
「あの…、他には…」
不安のせいか、半泣きになって社長さんを見ると、社長さんは眼鏡の奥に薄ら見える目を細めて、穏やかに笑いながら、
「それ以外にはないよ」
と、お顔と同じ、穏やかな口調で言った。
「そんな…」
僕はその瞬間、和が言ってたことの意味が分かったような気がした。
これまで僕は、長瀬さんが持って来てくれるお仕事に“嫌”って言ったことはないし、寧ろ僕自身が楽しめるようなお仕事ばっかだった。
でもそれって、よくよく考えてみると、最初に僕が言ったからなんだよね…
SMとかレイプモノだけはNGだ、って…
はあ…、今頃になって思い出したよ僕…