第21章 日常9:耳を塞げば…
僕ってば、つくづく都合良く出来てるってゆーか…
普段あんまり頭を使うことないから、多分疲れちゃったんだろうね、気付いたら寝ちゃってたみたいで…
「そろそろ起きないとバイト遅刻するよ?」
ほっぺを摘まれて目を覚ました僕は、超至近距離で僕を見下ろす翔くんの顔に、思わずドキッとしちゃう。
だってさ、ほんのちょっと顔を持ち上げたらさ、キス…出来ちゃいそうなくらい、翔くんのお顔がすぐ近くにあるんだもん。
寝起きには刺激が強すぎるよ…
「今何時…?」
「五時…ちょっと過ぎかな…」
そっか…って、えっ?
いくら頭使い過ぎたからって、昨夜あんまり良く眠れなかったからって、ちょっと寝過ぎじゃない?
しかも翔くんのお膝でさ…
「腹は? 減ってない?」
相変わらず至近距離で僕を見下ろして来る翔くん。
そんな風に見られたら、僕の心臓どうかなっちゃうんだけど…
「う、うん…大丈夫…」
「一応さ、お袋が智くんにってパウンドケーキと、おにぎり用意してくれたんだけど、食う?」
え、パウンドケーキ?
「うん! 食べる…食べたい!」
甘い物には目がない僕(笑)
パウンドケーキと聞いたら、呑気に寝てなんていられなくて、勢いを付けて起き上がろうと頭を持ち上げた。
超至近距離に翔くんのお顔があることを、すーっかり忘れてね…
だからさ、事故…だと思うんだ。
それも“不慮の事故”ってやつ。
だってそうじゃなきゃさ、僕と翔くんの唇がブチューなんてこと…、あるわけないもん。
絶対そうだよ…
「ご、ごめ…っ…」
「い、いや、俺の方こそごめん…。まさかいきなり起きると思ってなかったから、その…避けきれなかったっつーか…。ごめん…」
「う、ううん、謝らないて…? 僕がいきなり起きたりしたから、だから…」
「で、ても…」
そんなに謝らないでよ…、寂しくなるじゃん…
僕はテーブルの上にあったティッシュを引き抜くと、それを翔くんの口に押し付けた。