第20章 日常8:パーティー…とは?
「ほら、大丈夫?」
櫻井くんが、足を滑らせた拍子に落ちた帽子を拾い、僕の頭にポンと乗せる。
「う、うん、大丈…夫…」
本当は全然大丈夫なんかじゃないけどね?
僕の心臓…、まるでジェットコースターに乗った後みたく、バクバクいってるんだから…
だってさ、好きな人に腰を抱かれて、平気な人なんていないでしょ?
「あ、もしかして体調悪いとか? 顔、赤いし…」
「え、そ、そんなんじゃ…」
慌てて否定しようとした僕の額に、櫻井くんの額がピタッとくっつけられる。
「うん、熱はなさそうだね」
そりゃそうだよ…
僕の顔が赤くなってるのは、櫻井くんの腕が僕の腰を抱いてるからで、そんなことされたら余計に赤くなっちゃうのに…
ってゆーか、距離が…近過ぎて困るんですけど…
キス…したくなっちゃうよ。
でもそんな僕の気持ちを知らない櫻井くんは、ピッタリとくっついていた額をパッと離してしまうと、視線を腕時計に向けた。
「やっべ、急がないと遅刻だ…」
「え、マジで?」
けっこう余裕持って出たつもりだったのに?
「急ごうぜ?」
「う、うん…」
櫻井くんが僕の腰に腕を回したまま、階段を上る。
あれ…?
さっきまでの酷い筋肉痛で痛かった足と腰が、不思議と痛くない。
「ふふ、櫻井くんて魔法使いみたいた(笑)」
ついつあ漏れてしまった心の声に、
「はあ? 意味分かんねぇし(笑)」
櫻井くんがプッと吹き出す。
「だって本当なんだもん」
櫻井くんには分かんないかもしんないけど、好きな人に触れられてるとね、触れられた部分がじんわりと熱くなって、それが全身に広がって…
感覚が麻痺する…じゃないけど、嬉しい気持ちの方が勝っちゃって、身体が痛いこととか…全部忘れちゃうんだ。
ただ…さ、僕ってこう見えてけっこう欲張りだからさ、今はまだそれ以上を求めちゃいけないって分かってても、それだけじゃ全然足りなくて…
櫻井くんに気付かれない程度に、櫻井くんの身体に体重を預けた。