第16章 日常7:眠れない僕と寝相の悪い彼
「えっと…、二宮くん…だったっけ?」
漸くエプロンを外し、バッグの中に突っ込みながら、櫻井くんが思い出したように言う。
ってゆーか、ちょっぴりわざとらしい?
「特に何も話してないけど?」
嘘だよ…
だって、二人で消えたっきり、全然戻って来なかったじゃん?
なのに“何も話してない”ってさ、変だもん。
「絶対嘘だよ…。僕に内緒で何話してたの? 教えてよ…」
だいたい和は僕のお友達だよ?
僕にだって知る権利ってのがあると思うんだ。
「だーから、何も話してないって言ってんだろ?」
「で、でも、アドレスとか交換してたじゃん?」
“連絡するね”なんて言いながらさ…
「まあ…、それは今後のため…っつーか…」
何その“今後”って…
ますます気になっちゃうんだけど…?
「なんつーかさ、二宮くんてソッチの業界に顔が利くらしくてさ…」
ソッチの業界って、まさか…?
「でさ、今募集してんだとさ」
「募集って…何、を?」
「だーから、その所謂“相手役”ってやつ?」
相手役って、まさかのまさかして?
嘘でしょ…?
まさか和、櫻井くんを…?
なんてこと、あるわけ…
「でさ、俺にやってみないか、ってさ…」
あるんかーい!
「え、勿論断ったんだよ…ね?」
だって櫻井くんみたいな人が、AV男優なんて…
似合わないもん。
僕は期待をこめて櫻井くんをジッと見つめた。
“断ったよ”って、笑ってくれることを願いながら。
でも…
「一応さ、興味はあるっつーかさ…。だから返事は保留にしてもらった」
僕の願いは儚くも砕け散った。
それこそ木っ端微塵にね。
櫻井くんなら、絶対断ってくれると思ったのに…
裏切られた気分だよ。
その後、二人の間でどんなやり取りがあったのか…、僕は知らない。
聞く気もなかったから…
でもさ、まさかさ、二人があんなとんでもないことを計画してるなんてさ、その時の僕は知る由もなかったんだ。
『眠れない僕と寝相の悪い彼』ー完ー