第16章 日常7:眠れない僕と寝相の悪い彼
先に仕事に戻ると言う櫻井くんを見送り、手をジャブジャブと洗った僕は、ちょっぴり気まずさ…ってゆーよりかは、気恥しさを感じながら、相変わらず途切れることなく人が並ぶレジカウンターに戻った。
「僕レジ入ります」
忙しそうに貸出処理をしながら、同時に返却処理をする店長さんに声をかけると、店長さんは一瞬顔を赤くした(ような気がした)けど、すぐにいつもの顔に戻り、
「頼むよ」
僕にバーコードリーダーを差し出した。
「お疲れ」
「お疲れさま」
就業時間を過ぎ、櫻井くんと二人スタッフルームに戻った僕は、エプロンも外すことなくパイプ椅子に腰を下ろした櫻井くんに向かって、ペコリと頭を下げた。
「今日はありがとう」って言いながら。
すると櫻井くんは、
「なに、どうしたの? 俺、大野くんにお礼言われるようなこと、何かしたっけ?」
って、超すっとぼけた顔をして、両手を“分かりません”とばかりに広げた。
「だから、ニキビくんのこと…、ありがとう…」
「ああ、そのこと? だったら、俺は大野くんの“友達”として当然のことしただけだから、礼なんか必要ないよ」
うん、櫻井くんならそう言うと思ってたよ。
でもさ、やっぱり一度ならともかく、二度も三度も助けて貰ったし…、ちゃんとお礼は言わなきゃだもんね?
いくら“お友達”って言っても、ね?
「それにさ、礼ならまた今度纏めて貰うしさ♪」
「あ、ラーメン…?」
「そ♪ 奢ってくれるんだもんな?」
「それは…、約束したから…」
「だろ? だから今は礼はいらないから」
「うん…」
なんか…、分かったような分からないような…、不思議な感じだけど、櫻井くんらしい…のかな(笑)
あ、そんなことより…
ニキビくんの登場ですっかり忘れてたけど、
「さっき、僕の友達と何話してたの?」
櫻井くんが和とこしょこしょ内緒話してたのが、ずーっと気になってたんだよ!