第16章 日常7:眠れない僕と寝相の悪い彼
クスクスと肩を揺らす和を睨み付けながら、レンタルの手続きを済ませる。
もしここがバイト先じゃなかったら…、櫻井くんがすぐ隣りにいなかったら、思いっきり叫んでやるのにな…
”この意地悪なお友達は、NINOですよ!”って…
だってどうせ言ったところで、芸能人なんだかどうだか分かんないような、中途半端な立ち位置にいる僕達を知る人は、極少人数に限られるし、いたとしても大っぴらに”ファンです”って宣言出来る人だって稀だもん。
ま、櫻井くんみたいな人もいるから、言わないけどさ…
それに和の性格上、僕が和の正体をばらしたらとんでもない仕返しをされ兼ねないからね…
僕は内心ムッキーとなりながらも、処理済みのDVDを貸し出し袋に入れ、和に差し出した。
「返却は一週間後になるます」
なんて、決まり文句を添えてね。
そしたら和ってば…
目の前にいる僕を通り越して櫻井くんに手を振ると、
「さっきの話、ちゃんと考えといてね? で、決まったら連絡頂戴よ」
僕にはさーっぱり見えないお話をして、おまけにウインクまでしちゃってさ…
しかも当の櫻井くんまで、
「悪くない話だし、考えてから返事するよ」って…
え、待って?
ねぇ、分かってるよね?
だって和は僕のこと”お友達”って言ってくれたもんね?
そりゃさ、お仕事では僕の”お姉ちゃん”だけどさ、今はお互いスッピンだから”お友達”じゃん?
櫻井くんが僕のお友達(←って呼べる程”まだ”親しい間柄でもないけど…)で、僕の好きな人だって、分かってる筈だよね?
なのに何で?
何で僕に分かんないお話をしてるの?
僕…、寂しいよ…
仲睦まじい(←勘違いも甚だしい!)二人を見ているのに耐えられなくなった僕は、棚の上にドーンと積み上げられた大量の返却DVDを両手に抱えると、逃げるようにしてカウンターを出た。
そんな僕を見てか、僕の背後でクスクスと笑い合う二人の声が聞こえたけど、気にしないもん…