第16章 日常7:眠れない僕と寝相の悪い彼
「ねぇ、ひょっとして智が気になってる人って、あの怖い顔してこっち見てる彼?」
え?
怖い顔って…櫻井くんがそんな怖い顔してる筈が…
「は、ははは…、うん、そうみたい…」
ないと思ったんだけどなぁ…
チラッと横目で見た櫻井くんは、すっごく怖い顔をしていて、そうまるであのニキビくん前にした時みたいな、そんな目で和のことを睨み付けている。
「彼、嫉妬してるね」
「え…? 嫉妬って…、何に?」
僕が首を傾げると、和は呆れたとばかりに“はあ…”と、超特大の溜息を落としてから、
「とにかくこれお願い。あ、あとコレ、どこの棚にあるか教えて欲しいんだけど」
僕が受け取ったDVDを指でコンと弾き、ポケットの中から取り出した小さな紙切れをカウンターの上にパンと出した。
「あ、ああ、それなら確か…」
僕が紙切れを手にカウンターを出ようとすると、
「俺が案内するから、レジ頼む」
とーっても怖い顔の櫻井くんが、僕の手からピッと紙切れを取り上げてしまった。
「で、でも…」と、紙切れを取り返そうとするけど、そんな隙もなく櫻井くんはスタスタと、反り立つレンタルDVDの棚の間に消えてしまい…
「彼、相当嫉妬してるみたいだね(笑) くくく、智のことが気になって来てみたけど…、何だか面白くなって来ちゃった♪」
和も櫻井くんを追いかけるように棚の間に消えて行った。
一人ポツンと残された僕は、やっぱり和の言ってる意味が分からなくて、目の前にお客さんが並んでいることにも気付かず、ひたすら首を傾げた。
すると、そんな僕の様子に気付いた店長さんが、
「こーら、ボーッとすんな」って僕の肩をトンと叩いた。
「客並んでるぞ?」
「え…?」
あ、ホントだぁ…
ハッとして顔を上げた先には、DVDの束を持つ人が数人並んでいて…
「い、いらっしゃいませ…」
僕は、二人のことを気にしつつも、レジ業務をこなした。