第16章 日常7:眠れない僕と寝相の悪い彼
先にタイムカードを押した僕は、クスクスとなでた肩を揺らす櫻井くんをスタッフルームに残し、
「おはようございます」
レジカウンターに立つ店長さんに声をかけた。
「あれ? 櫻井くんは? 一緒じゃないの?」
「もう来るんじゃないですか…?」
「お、珍しいね、喧嘩でもした?」
「べ、別にそんなんじゃ…ないけど…」
「そ? なら良いんだけどさ、君達いつも仲良くしてるからさ、ひょっとして…と思ってさ…」
だって笑うんだもん…
僕がちょっとでも先輩っぽくしようと思って、櫻井くんに「頼むよ?」って言っただけなのにさ、笑うんだもん。
ってゆーか、店長さんから見ても、僕達ってそんなに仲良さそうに見えるんだ?
ふふ、ちょっと嬉しいな♪
…って、ちょっぴり顔が緩んだところで、スタッフルームのドアが開いて、
「おはようございます」
超不機嫌顔の櫻井くんが店長に向かって軽く頭を下げた。
そして僕の隣に立つと、
「先輩のくせに後輩置き去りにすんなよな…」
肘で僕の脇腹をツンツンと突っついた。
そこ…僕弱いのに…
もし僕の息子かきんが、エプロン捲り上げちゃったら、どう責任とってくれるの?
僕はツンツンする肘を手で払いながら、
「これ、借りたいんだけど」
目の前に差し出されたDVDと、会員カードを受け取った…けど…
あれ?
この声って…、まさか…?
「ニ…じゃなくて、か、和? え、え、な、何で…?」
「何でって…、ちょっと気になったから、来ちゃった♡」
「き、来ちゃった…って、何で? え、どうして?」
いきなり過ぎて、僕頭が追いつかないよ…
「くく、智驚き過ぎ(笑) だいたい、先に連絡して来たのは智の方だからね?」
それは…そうだけど…
「それに…」
和がカウンターを挟んだ向こう側から、指をチョイチョイとするから、僕は周りを気にしながらも、和の口元に耳を寄せた。