第16章 日常7:眠れない僕と寝相の悪い彼
結局一睡も出来ないまま朝を迎えた僕は、洗面所の前でガックリと肩を落とした。
だってさ、僕の目の下…デッカイクマさん出来てるしさ、ちゃんとお手入れしてないから、カサっとしてるしさ…
こんなんじゃ、事務所の社長さんに怒られちゃうよ…
「You、最悪だよ…」って…
はあ…、次の撮影までには何とかしなきゃ…
僕は疲れた顔に水を浴びせかけると、顔に付いた水気を乾いたタオルでそっと拭った。
その時、
「おはよ…」
鏡越しに、寝癖たっぷりの頭をボリボリする、櫻井くんの寝ぼけなまこ…じゃなくって、寝ぼけまなこと目が合った。
「あ、お、おはよ…ぅ…。よく眠れた?」
「まあな…。でもさぁ、やっぱりあれだよな…」
“あれ”って何よ、“あれ”って…
「HIMEちゃんの抱き枕がないと、どうも夢見が悪いっつーかさ…」
そう?
その割には随分ニヤニヤしてたけど?
「あ、そんなことよかさ、朝飯は? 俺、朝は白飯と味噌汁と、後は焼き魚と卵焼きがあれば十分だからさ」
「は、はあ? そんなん材料も何にもないし…」
それに僕、朝は滅多に食べないし、たまに食べてもパンとコーヒーだけで済ませちゃうし…
だいたい、朝は寝てたいもん。
「そっか…。大野くんの手料理食えると思って、ちょっと期待してたんだけどな…」
「そう…なの?」
「前に言ってたでしょ、けっこう自炊するって…」
ああ、そう言えばそんな話しを前にしたような…
でもあの時はたまたまた頂き物の筍さんが沢山あったから、だからほぼ毎日くらい自炊してたけど、今はもう全部食べきっちゃったし、それに最近お買い物にも行ってないから、冷蔵庫も冷凍庫も空っぽだし…
「ま、また今度作るから…」
「マジで? 約束だかんな?」
「う、うん…」
なんだろう…
僕達まだただの友達なのに、こんな恋人みたいな会話してるの、すっごく不思議。
でも…
櫻井くんと“次”の約束が出来るの、嬉しいかも♡