第14章 日常5:素顔の僕とお姉ちゃん(?)
売り飛ばされるわけじゃないんだ…って思ったら、急に身体の力が抜けちゃって…
「行こうか」
先に車を降りた相葉さんがドアを開けてくれるけど…
「えと…、あの…、はい…」
ホッとしたせいで腰が抜けたみたくなっちゃった…とは言えなくて…
やっとの思いで両足を地面に下ろした…けど、そこまで。
「あ、あの…、手…、貸して貰っても…?」
僕は縋るような目で相葉さんを見上げた。
「いいけど…(笑)」
若干の笑いを含んだ口調で言って、相葉さんが僕に右手を差し出して来るから、僕はその手に自分の手を重ねた。
「よっ」と、相葉さんが掛け声をかけながら、僕の身体身体を浅いシートの上から引き起こしてくれて、漸く車から降りることが出来た僕は、なんだか申し訳ない気持ちで顔を俯かせた。
…ってゆうかさ、大体最初からちゃんと説明してくれてたら、僕だってこんなとんでもない想像しなかったのに…
相葉さんにだって責任はあるよね?
うん、そうだよ、相葉さんが悪いんだよ…
それからNINOも…
僕は唇を尖らせ、頬をプウッと膨らませた。
でも相葉さんはそんな僕の様子に気付くこともなく、
「急ごうか、NINOが待ってるから」
爽やかなウインクなんが寄越して来るんだから、怒りもどこかへ吹き飛んじゃうよ…
僕は相葉さんに手を引かれるまま、駐車場通用口からエントランスホールに抜けると、二人で並んでエレベーターに乗り込んだ。
それにしても凄いな…
僕の安アパートとは、全然比べ物になんないや…
二人で暮らしてるって言ってたけど、ここ相当お家賃高いよね?
まあでも、そっか…、そうだよね…?
なんたって相葉さんもNINOも、この業界(ゲイビ業界ね)ではトップクラスの男優(女優)さんだし、これくらいお安いもんなのかもね?
だって、えっと…
僕は相葉さんに見えないように、こっそり指を折って苦手な算数を始めた。