第12章 scene3:診察室
「ここ、座って待ってろ」
本物みたく組まれた病院の診察室の中、僕はちょっぴりヘンテコな形をした診察台(?)の上に降ろされた。
出来れば座りたくないんだけど、仕方ないよね?
だって松本さんだもん…
この業界の事情に疎い僕でも知ってるくらい、大物男優の松本さんには、僕みたいなヒヨっ子は勿論、誰も逆らえないもん。
もし逆らえるとしたら…
「よーし、んじゃ、そろそろ始めっか(笑)」
松岡監督さん…くらいかな…
僕は初めてお世話になる監督さんだけど、すっごく有名な監督さんみたいだし、松岡監督さんが撮影した作品は、どれもこれも大ヒットしてるらしいし…
松岡監督さんが凄い人だってことは、こんな僕でも分かる。
僕はサラッと胸元に揺れる髪をツルンと揺らし、
「宜しくお願いします♡」
満面のHIMEスマイルを浮かべると、スタジオのあちらこちらでも、「宜しくー」と作業中のスタッフさん達の野太い声が飛んだ。
さっきは気付かなかったけど、よく見ると知ってる顔もチラホラ見えて…
そのもっと先では、初めて目にする光景に、目をキラキラさせながらも、落ち着かない様子の櫻井くんの姿も見える。
僕はHIMEスマイルを絶やすことなく、でも内心では櫻井くんの存在に動揺を感じながら、ツルンとした髪を指に巻き付けた。
すると…
「あー、ちょっと悪ぃな…」
突然松岡監督さんか僕の後ろに回ると、僕の髪を大きな無骨な手で一つに束ねてしまった。
そして、
「え、あの…」
「じっとしてろや…」
戸惑い、振り返ろうとした僕に一喝してから、近くにいた唯一の女性スタッフに手招きをした。
美容師さんみたく、ブラシやらクリップやらを装備したエプロンを巻いてるから、多分ヘアメイクスタッフさんなんだろうね。
女性スタッフは足早に僕の元へと駆け寄ると、松岡監督さんに指示されるまま、僕の髪をアップスタイルに纏め上げた。