第11章 scene3:病院
「おはようございま〜す♪ 今日は宜しくお願いしま〜す♪」
表面上は何ともない素振りで、スタジオにいたスタッフさん達に挨拶をする。
実際は下半身がそれどころじゃないんだけどね?
「あ、監督さんは…?」
確か今日の監督さんは、松岡監督さんの筈だけど…
スタジオの中を一通り見回してみるけど、松岡監督さんらしい人の姿は、どこにも見えない。
時間には割と厳しい人だって聞いてたけど、遅れてるのかな…
僕はスタッフさんが差し出してくれたクッキーを手に取ると、ヌーディカラーのリップを塗った唇を気遣いながら、一口で頬張った。
んふ、おいひぃ♡
「ね、もう一個貰っても良い?」
美味しいお菓子って、ついつい止まらなくなっちゃうんだよね〜♪
「はい、幾つでもどうぞ」
「やったぁ♪」
隣で「それ以上食ったら太るぞ」って長瀬さんの声がするけど、そんなの気にしないもん。
僕はルンルン気分でクッキーに手を伸ばした。
そしてクッキーを口に頬ばろうとしたその時、
「あ、松本さん…、おはようございます!」
クッキーをくれたスタッフさんが、急に腰を直角になるくらいに折り曲げ頭を下げた。
それに驚いた僕は、咄嗟に手に持ったクッキーを背中に隠すと、
「あ、あの、HIMEです。今日は宜しくお願いします」
スタッフさん…程じゃないけど、頭を下げた。
「ふーん…、君がHIMEか…。噂になるだけあって、中々可愛いじゃないの」
「あ、ありがとうござ…い…」
俯いた僕の顎先に手がかかって、僕の意志とは関係なく上向かされる。
でも真っ直ぐ顔を見ることが出来なくて…
だって、写真でしか見たことないけど、いかにも“スター”って感じの人だったし、ちょっと怖い人なのかもって思ってたから…
だから僕、咄嗟に視線逸らしたんだ。
そしたらさ、そこにさ…いたんだよね…
夢でも幻でもなく、現実の櫻井くんが、松本さんの横で大きな目を更に大きくして、立っていたんだよね…