第10章 日常4:彼のベッド
多分僕、とんでもなく間の抜けた顔してた…んだと思う。
「な? 凄いだろ? つか、ちゃんと起きてる?」
掴んだままの腕をブンブン振られて、
「あ、ああ、うん…、起きてるけど…」
一応は返事を返してみるけど、やっぱり意味が分からない。
“櫻井くんが、撮影現場の見学に行く”ってことは分かる。
でも“撮影現場”の前にある二文字が、僕にはどうしても気になっていて…
「えっと…、撮影現場の見学って…、AV…の?」
「そうだよ? 言ってなかったっけ、俺の従兄弟にAV男優やってる人がいてさ…。その人にずっと頼んでたんだよね、俺」
「ふ、ふーん…、そうなん…だ?」
ヤバい…、嫌な予感がする。
だからかな…、僕の顔、引き攣ってる。
あ、で、でも、AV男優って言っても色々あるし…、必ずしも僕と“同業者”とは限らないもんね?
うん、そうだよ。
それに仮に、櫻井くんの従兄弟さんが“同業者”だったとして、これまでの共演者を含めて僕の知り合いとは限らない。
でもやっぱりちょっと不安だな…
「ね、ねぇ、それっていつなの?」
「いつ、って?」
「だから、撮影現場の見学にはいつ行くの?」
「さあ…」
さ、さあ…、って…
それすっごく重要なのにぃ!
ま、まあでも、AVの撮影なんてあちらこちらでやってるし、第一僕と櫻井くんの休みが重なることは滅多にないし…
うん、大丈夫。
いくら櫻井くんがHIMEのファンだったとしても、櫻井くんが僕…ってゆーか、HIMEの撮影現場に見学に来るなんて、絶対にない筈。
だから大丈夫!
…って、その時は思ってたんだけどな…
まさか…、ねぇ?
『彼のベッド』ー完ー