第9章 日常3:彼の部屋
二口分のプリンと、櫻井くんのちょっとした優しさに、僕のどんよりした気持ちは一っ飛び、どこかへ消えた。
僕は口の中に残ったプリンの甘さを、最後の最後まで楽しむと、次は何にすると言わんばかりに、袋の中を漁った。
すると櫻井くんはそんな僕の姿にクスクスと肩を揺らしながら、僕の肩をガシッと掴んだ。
「な、何…?」
「ここ…」
「えっ…?」
聞き返した僕の顔に、櫻井くんの手が伸びて、ついでに顔が近付いて来て…
一瞬、“キスされる!”って思った僕は、咄嗟にギュッと目を瞑った。
でも…
待てど暮らせど僕の唇に櫻井くんの唇が触れることはなくて…
その代わりに、僕の唇の端を櫻井くんの指がスッと拭った。
「プリン付いてたぞ?(笑)」
「へ? あ、そ、そう…? あり…がと…」
僕は凄い勢いで打ち付ける心臓の音をひた隠しに、櫻井くんにお礼を言うと、トレーナーの袖で口元を乱暴に拭った。
「子供かよ(笑) ティッシュ使え」
「う、うん…」
櫻井くんが、ベッドサイドに置いていたティッシュの箱を僕に向かって差し出すから、僕はそこから一枚だけ引き抜いて、再度口元を拭った。
「つか大野くんさぁ…、俺がキスすると思った?」
「えっ…?」
「いや、だってさ、目なんて閉じるし、期待してんのかな…って思ってさ(笑)」
「そ、そんなこと…思ったことも…」
“ない!”
…とは言いきれない自分が、何だかちょっぴり切ない…
「ふーん…、だったら別に良いんだけどさ…。ほら、俺の好みはHIMEちゃんみたいな子だし、第一俺“男”には興味ないしな?(笑)」
そう言って櫻井くんは、両腕を枕代わりに、ベッドにゴロンと横になった。
ってゆーか、“HIME”もあんな格好してるけど、立派な“男”なんだけど?