第9章 日常3:彼の部屋
その日、僕がバイト先のレンタルショップに行くと、そこには見知らぬ女がいて…
「ねぇ、誰?」
同じくバイトの斗真にこっそり聞くと、斗真は返却された山積みのDVDをカゴに入れながら、
「新しいバイトの子だってさ」
そう言って、新人ちゃんをチラッと見た。
「へぇ、そう…なんだ…? あ、ところで…」
僕は店内をグルッと見回すと、いつもある筈の姿を探した。
でもどこにもその姿はなくて…
「櫻井くんは? 休み?」
両手に、DVDがギッシリ詰まったカゴを下げた斗真に聞くと、斗真は「さあね…」と言って、何千枚とあるDVDが陳列された棚と棚の間に消えた。
僕は首を傾げつつも、スタッフルームに入り、店から支給されたエプロンを身に着けた。
荷物をロッカーに仕舞い、タイムカードを押そうと思ったけど、それにはまだ時間が早いことに気がついて…
僕はせっかくロッカーに仕舞ったリュックからスマホを取り出すと、メッセージアプリを立ち上げた。
「えっと…、櫻井くんは…、と…」
画面に並ぶ名前の中から櫻井くんの名前を探し出し、櫻井くんとのトーク画面を開いた。
連絡先を交換してから、まだ一度もメッセージを送っていない画面に、一瞬戸惑いを感じる。
けど、気になるもんは気になる。
僕は意を決して真っ白な画面に、スタンプを一つ送った。
櫻井くんオススメの、“HIME”に似たキャラクターのスタンプだ。
ちょっと恥ずかしいけどね?
だって、櫻井くんは知らないけど、“HIME”は僕なんだから、僕が“僕”に似たスタンプを送るなんて、さ…
やっぱ、どう考えても恥ずかしいっしょ(笑)