第21章 理想郷を求めて
体も小さくなり、輪郭が変わる。その光景に思わず口が開いて塞がらない。声にならない声が出た。羽毛の無くなったベールクトの皮膚がズルズルと落ちていき、中から何か出てくる。人のような目が見えた瞬間に狡噛は立ち上がって距離を取った。皮膚が地面に落ちる。まるで脱皮だ。中から現れたのは痩せた女だった。白い髪が槙島を思い出す。亡霊かと思ったが違う。印象が槙島とは遠い。狡噛はこの女を知っていた。驚きのあまり声を失ったので名前が出てこない。数秒沈黙が流れた。女の方もただ瞬きしているだけ。
「あ…お前……」
やっと声になった。それでもまだちゃんと言葉にならない。
「狡噛さん。」
女が口を開いた。でもついさっきまでベールクトだった。わけが分からない。分からないが分かる。理屈は分からないがそれに当たる人物を一人だけ知っている。
「…?」
やっと言えた。は少しだけ口角を上げる。
そういうところが変らないなと思う。
「まず、服を着ろ。」
は自分の姿を確認する。
「服持ってない。」
「なんだそれ。」
女のくせに服を持っていない、おまけに裸で出てくるやつがあるか。
「だって何年も人にならなかったから必要なかった。」
狡噛の頭の中は完全に整理はできていない。ベールクトが人になる時点でも驚くのに、でてきたやつは女で裸。ただネックレスだけをしてあとは何も身につけていない。非日常が一気に舞い込んできた感じだ。とにかく羽織っていたシャツを脱いで投げ渡す。
「早く着とけ。」
は黙ったままさっさと着るがその間も隠そうとはしなかった。全く気にする様子もない。じっと見ているわけにもいかないので狡噛は煙草に火をつけた。深く吸い込んで吐き出すと、ボタンも止め終わった頃だった。さてどこから話そうか。聞きたいことはたくさんある。
「お前、結構変わったな。」
狡噛は言いながら真っ白な彼女の髪の先を少しとってサラリと流した。
「狡噛さんは、大きくなりましたね。」
筋肉で厚みが増したということなのだろうか。他愛もない出だしに笑えてくる。
「どれぐらい経った?」
「十五年、くらいでしょうか。」
「十五年かぁ…」
煙草を深く吸ってふうっと吐き出す。が一瞬だが嫌そうな顔をしたので火を消して携帯灰皿に収めた。