第20章 楽園事件:11
「全く…どいつもこいつも俺を置いていく…」
雑に放たれたそれは以外も示すように聞こえた。狡噛の時も思ったのだろうか。
体をぐるりと後ろへ向けると宜野座の懐に収まる。体は鍛えられて逞しいのにどこか弱々しい。宥めるように抱きつくと、逆に強く抱き締められた。
「俺には…お前を止める権利はない。俺はここから出られないから。」
「じゃあ、ギノさんの分もたくさん見てきますよ。」
「帰ったら話してくれるか?」
「たくさん話せるようにしておきます。」
「帰ってくるんだな?」
「…そうですね。帰ってきます。」
「そうか、…良かった。」
心底安心したような顔をして宜野座はまた抱き締めた。身動き一つ取れないほど力を込められるもその時ばかりは仕方ないと思えた。きっと寂しくなったら自分も同じことをする。それが分かったから。
それからは常守に連絡し、出ていくことを伝えた。二人になったときにこっそり常守からも言われたが、実はを上層部に引き渡すように指示がでたところだったらしい。そうなると…常守には先が分かっていた。
「さんの強靭な色相を調べるために何をするか分かりません。不謹慎かもしれませんが、日本を出る判断は今は最善と思います。」
「…取り逃がしたと、罰せられたりはしませんか?」
「そのあたりは心配には及びませんよ。慣れてますし。」
笑って話す常守だが彼女こそ強靭な精神の持ち主であると思った。こういう人間が監視官になるから街が機能できるのだろう。強ちシビュラも間違ってはいないのかもしれない。
「一つ、お願いしてもいいですか?」
「なんですか?」
「狡噛さんに会ったら、よろしくお伝えください。」
「…分かりました。」
どこにいるかも分からない一人の男に出会うなんて出来るだろうか。それでもその時はイエスとしか返事できなかった。
はその後も六合塚と霜月に挨拶した。霜月は国外の方が野蛮に飛び回れていいだろうと意地悪く言っていたが、彼女なりの勇気づけだと分かった。あれほど最初は化け物だと嫌がっていたが今は慣れたのかそれほどでもない。
「霜月監視官、あなたも大変だろうけど頑張って。」
「あんたに言われなくたって頑張るわよ!余計なお世話、大きなお世話!」