第19章 楽園事件:10
警報の詳細を確認する霜月はさらに溜息をつく。
「職業訓練校施設内。誰かさん、今日見学じゃなかったですかねぇ?」
これでもしエリアストレスの元凶がならば霜月は更に彼女に嫌悪するだろう。そうであってはほしくないと願う。
だがそれも虚しく、現場にはいつになくきちんとジャケットを羽織って大人びた彼女の姿があった。職員室の中で小さくなって座っている。霜月は教員に名乗ると状況を聞くより先にに何をしたのかと問い詰めた。は目を合わせなかった。
「おい、順番が違うだろう。」
「じゃあたまたま彼女の見学の日に、たまたま彼女が居る時間に問題が起きたっていうんですか?」
ここで痴話喧嘩になっても仕方がないので宜野座は飼い主を無視してまず数名の教員に状況をきく。
「丁度授業の合間の休憩時間でした。普段の生徒の様子を見てもらおうと彼女を案内していたんです。そうしたら生徒らの言い争う声が聞こえて、近くにいたのが私だったので止めに入りました。」
と話すのはこの学校の教頭にあたる人物だった。四十代ぐらいのやや目元にシワのある男性だった。そして、彼が話す言い争っていた生徒というのは直ぐ傍で黙っている男子二人だろうというのは聞かずとも想像がつく。
一体何にそこまで争っていたのかと聞けば、片方が片方の陰口を言っていたことがバレたのがきっかけだった。学生にはよくある。それがヒートアップして色相が濁ったのだろうか。未成年の多いところに公安局が長居するのもあまりよくはない。それだけ彼らのサイコパスはまだ未熟だ。彼らと周りで見ていた人も含めてセラピーを受けるよう強制させた。
「ところで刑事さん、最初は彼女を疑っていたようですが、何か問題のあった方なのでしょうか?」
霜月の態度を見れば当然そうなる。この教頭も後ろの生徒も周りの教員らもそれを気にして視線を送ってくる。
「え、あぁ…いや、そういうわけじゃ。」
霜月が慌てるのを見て宜野座とが溜息をついた。
「監視官、俺は彼女にセラピーを受けてもらう。後を頼んだぞ。」
「ちょ!ちょっと!勝手なことしないでよ!」
本当に大丈夫なのですか?と教員らはさらに不安になっていた。霜月には丁度良い。現場の指揮をとるためにもう少し言動に気をつけてもらわなければならないからだ。