第18章 楽園事件:9
「ギノさんが言うならそうしますよ。」
それを聞いてどこかほっとしてしまう。彼女の肩を引き寄せて、手で顔を上に傾かせゆっくり唇を落とした。温かい。生きている、命の温かさだ。宜野座は唇を離してもを腕の中に閉じ込めた。肌が直接当たると心地よい。シャンプーの香りが髪から漂う。それがふと離れた。腕の中を彼女はすり抜けていった。
「次、お風呂どうぞ。」
「あぁ。」
は脱衣所を出ていった。まだ毛先は濡れていたように見えたが、嫌だったのだろうか。彼女は簡単にこの手を離れていく。もっと遠くへ行ってしまう日はそのうちやってくると思った。きっと止めることはできない。彼女の人生だから縛ってはいけない。でも今この脱衣所をドア一つで隔てている間にも居なくなるのではないか。一旦頭を冷やそう。服を脱いで浴室のドアを開けた。レバーを撚ると丁度良い温度の湯が丁度良い圧力で出てくる。それを頭の上からかぶれば最初は水を弾く髪も段々と浸透させて、顔や首にべったりと張り付いた。
一人で考えても仕方のないことは分かっている。だが考えずにはいられない。彼女が遠くへ飛び去っていくことを。止めてはいけない、止める権利はない。でも引き止めたい。彼女の翼は宜野座には大きすぎる。見えなくなるほど高く飛んで行ってしまう。あの大きな翼を羽ばたかせたいのなら、今の日本では自由は飛びにくいだろうか。それとも国が小さすぎるだろうか。彼女の目には世界はどのように映っているだろう。