第17章 楽園事件:8
そうです、とでも言うのだろうと思った。彼女のことだから、相手さえ良ければ自分のことは構わない、変に中断してがっかりしているから少し喜んでくれればいいとかそんな理由だろうと。だがそんなものではなかった。
「私がしたくてやってます。嫌ならどうぞ離れてください。」
冷たく言い放つ。彼女の孤独を孕んだ言葉を宜野座は突き放したりしない。
「嫌じゃない。」
体をの方に向けると背中に腕を回して引き寄せた。彼女もまた宜野座の背に腕を回してしがみつくようにシャツを掴んだ。
「ギノさん…」
「ん?」
「私…どうしよう…」
震えているような声。不安がどうしようもなく後をつけてくる感覚なら宜野座もよく知っている。大切に思った人はみんな自分を置いて行って居なくなってしまったから。ある意味とは似ているのかもしれない。だから放ってもおけないのかもしれない。
「大丈夫。俺はずっと居る。」
言いながら頭を撫でる。それしか分からなかった。
「離れることがあっても、お前が必要な時は傍にいく。だから大丈夫だ。」
今度は見逃さない、間違わない。大切にしたい人が悩めるときは傍にいて、話を聞いて、必ず力になる。狡噛のようにも、父のようにもさせない。宜野座はその信念で今がある。
「絶対、大丈夫だ…」
子供をあやすように背中をぽんぽんと叩く。するとシャツを掴む手が離れた。少し落ち着いてくれただろうか。顔が見える程度に体を離してみると白い睫毛の隙間にアンバーが光る。頬に手を添えてよく見ると琥珀色になったりブラウンになりながらきょろきょろと動いた。
「は真っ白だな…」
「変ですよね。」
「いいや、綺麗だ。妖精みたいだ。」
「ギノさんってそんなこと言うんですね。」
「変か?」
「ちょっと違和感。」
「…そうか。」
綺麗だと思ったから言っただけなのにとボソボソ呟いていた。昔のの記憶の中にいる彼とはかけ離れたいた。給湯室で鉢合わせした時のことは忘れられない。眼鏡が光っていて怖かった。いつも怒ったような顔をしていた。それが今目の前にいるのは同じ人とは思えないほど優しい顔をしている。優しく触れてくれる。安心をくれる。居場所をくれる。は頬を撫で続ける手を取って指を絡めた。心無しか宜野座が赤くなる。