第16章 楽園事件:7
阿頼耶の接触から数日後。行方不明者の捜索願が次々に公安局へ舞い込んできた。いずれも矯正施設から出所したばかりの者たちだった。彼らを最後に見た人たちは口を揃えて様子がおかしかったと言っている。ところがその捜索願が出てから傷害事件がピタリと止んだ。厳密には阿頼耶との接触があった翌日から。
その中には亮一を食べた者も含まれる。
「皆、犠牲者ですよね…。食べるつもりなんて毛頭なかったはずなのに。」
そう思うとやはり阿頼耶のやっていることはおかしい。いくらシビュラにはじかれた人を助けたいと言っても殺人があっては元も子もない。
「の様子はどうなんですか?」
「ここニ、三日うんともすんとも言わない。部屋に行って声はかけてるんだが…」
「捜査協力はまだ難しいですかね…」
「そんなこと言ってる場合ですか!?猛獣が大勢、この街に息を潜めてるんですよ?」
「それなんだけど、捜索願のあった人たちはこの前亮一くんから出たDNAの数に比べてずっと多いでしょ。」
「出てこないってことは、いいレストランでも見つけてるかもしれないじゃないですか。廃棄区画なんかはこっちも把握していないんですし。」
「でも、それだと阿頼耶の思想に反すると思うの。」
「思想!?」
阿頼耶が救いたいのは主に潜在犯、廃棄区画の住人。そもそも人を餌にするなんて事は考えていなかったはず。でも食料をどうにかしなければ彼らは欲求が抑えられなくなっていく。
「阿頼耶は自分の食料は底をつきたと言っていた。恐らくの妹である六花を保存して少しずつ食べていたと思われる。」
死んだ人間でも良いのか。だが最初の事件のように死人を盗むようなことはもうできまい。食わせなければならない人数が多すぎる。
一係が頭を悩ませているところにさらに耳障りなサイレンが響いた。エリアストレス上昇警報だ。唐之杜から連絡が入る。
「地下で大規模な爆発が起きたわ。場所は…旧地下鉄銀座線、浅草駅。まぁ使う人なんていないしけが人もいないと思うけど…」
「行きましょう。」
一係は総出で出動した。常守は爆発現場へ。霜月は宜野座と六合塚を連れてエリアストレスの上昇した地域へ向かう。
現場は地下鉄の入口が瓦礫で塞がれ煙があがり、爆発のあった場所に沿って地面が陥没していた。
鑑識用のドローンを配備して捜査を進める。
