第15章 楽園事件:6
寒い日が続いた。あれから二週間程経つ。未だ進展はない、いろんな意味で。それよりも公安局は連続傷害事件で忙しい。突然人が唸り声を上げて襲い噛み付いてくるのだという。まだ死人は出ていないことからネット上ではゾンビ襲来だと騒がれた。事件現場に統一性はなく、犯人が街頭スキャナに引っかかるところからも、見つからないようになどと意識はしていないとみる。
一係は今回現場となった公園に総出で来ていた。被害者は治療のため病院に運ばれた。犯人は一係が着く前にドローンが抑えた。ニ十代男性。現場に最初に接近した常守がパラライザーで気絶させた。彼からも話を聞く必要がある。手錠をかけて護送者へ乗せた。常守が公安局に連行するので残りの三名で現場検証だ。
六合塚がまず被害者の身元を調べる。
「被害者、旭香苗。二十三歳。商社勤務の事務員。帰宅中の午後六時頃この公園で犯人に手首と腕を噛まれています。」
地面にはその時の血痕が残っている。飛び散り方からいって動脈を噛まれたとみえる。
「帰宅ラッシュ時間にやるなんて…」
当時周りには他にも通行人がいた。彼らは被害者の襲われる様子を見て色相を濁らせ、それがエリアストレスを上昇させて公安局出動だ。
「被害者と犯人の関係は?」
宜野座が辺りを注意深く観察しながら六合塚へ投げる。
「それが、友人や過去の交際歴をみても全く接点がありません。」
「なら二人は毎日この公園を通っていたかどうかは?」
今度は霜月が提案する。直ぐに唐之杜へ街頭スキャナの映像解析を依頼する。が、過去三ヶ月分を洗ってもおかしな点はなかった。
「なら、犯人の今日一日の動きを遡れるだけ遡って!」
「それなんだけど、公園の防犯カメラの映像が普通すぎるのよね。」
ラッシュ時間で多くの人が行き交う中、犯人も普通に歩いているようだった。それが突然止まったかと思うと目の前にいた人を襲った。それが被害者の旭だった。
「衝動的にやったっていうの?人間のやる事とは思えない…」
送られてきた映像をみて霜月は咄嗟に口を抑えた。非人道的な犯人に色相が濁りそうだった。
だが宜野座はこの動きを知っている気がした。憶測で物を言うのはあまり好きではないが。
「この犯人、や亮一たちと同じなんじゃないか?」
「はあ!?」
霜月はもういい加減にしろと言わんばかりに不満を露わにした。
