第14章 楽園事件:5
静かな部屋だ。薄暗いがぼんやりと灯りが見える。カウンターにある照明の灯りだ。が目を覚ますと景色は横になっていた。体をゆっくり起こすとそれらは正しい向きに直る。
他には誰もいない。余程眠ってしまったのだろうか。部屋に時計がなくて時刻が分からない。テーブルにあった食べ物や酒等の飲み物はきれいに片付いている。喉が渇いた。冷蔵庫に何かあるかもしれない。開けるとソフトドリンクのペットボトルが数本入っている。はミネラルウォーターを取った。
冷たい水が身体を流れるのが分かる。皆はどこに行っただろう。リョウは…。誰か来るまで大人しくしている方がいいだろうか。もう一度ソファに座る。体を横にする。
こんなふうにソファで横たわるのは昔にもあった。もっと小さなソファだったがこれより心地よかった。目を閉じると思い出せる、髪を指に絡めて耳にかけるあの感じ。懐かしい。
と、ドアが開いた。入ってきたのは宜野座と亮一だった。何か楽しげに話している。はもう一度ゆっくりと体を起こした。亮一がすぐに隣に座る。
「よぉ、眠れたか?」
「うん。」
「宜野座さんと朱ちゃんとダイムの散歩に行ってきた!」
「ダイム?」
「俺の愛犬だ。」
宜野座が向いのソファに腰掛けた。スーツではなく私服に着替えている。今日はもう上がりなのだろうか。
「ダイム、すげぇいいやつだったぜ!頭も良いしな!」
亮一は感動したように言っている。宜野座は満更でもなく喜んでいた。亮一は犬の言葉がほんの少しだけ分かる。
ダイムはどうやら狼の血が濃いようだから少し話せたのだろう。
「良かったね、でもそろそろ行かないと…」
休んでばかりもいられない。
「なんだよ、起きたばっかりだろ?せめてもう一回飯もらってから行こうぜ。」
「リョウ、皆も仕事があるんだから邪魔しないで…」
言いかけて宜野座は気にするなと言った。また出前をとってここで食べるなら問題もないと。
だがの問題はそこじゃない。
「私は先に行く。」
亮一がおい、とか待てよとか止めていたが宜野座にはかける言葉が分からなかった。彼女の目はどこかいつも遠くを見ているような気がする。家族のこともあるなら仕方がない。はドアの向こうに消えていった。静かな部屋に亮一の溜息が響く。
「俺は飯もらってから行く。」