第11章 楽園事件:2
ラボのパソコンはついたままだった。
画面にはのデータが表示されていて、難しい言語が書かれていた。好奇心からは他のファイルを開けると、見たことのある子供のデータも同じような形であった。写真や名前は分かってもそれ以外は読み取れない。センセイはそもそもなんの治療をしていたのか。どうして自分は他の動物の遺伝子を持っているのか。閲覧できるファイルを片っ端から開けるとロックのかかったフォルダがあった。パスワードを求められている。思いつく限り入力した。だが開かない。他にないかと机の周りを漁ると、引き出しからは過去数十年分の似たようなデータが旧式のディスクで保管されていた。更に下の段には紙がたくさん入っていた。今どき珍しい契約書や受領書が紙媒体で残されていた。売主と購入者の名前が書いてあるが知らない名前ばかり。商品名は数字とアルファベットの混ざったもので、具体的に何なのかは分からない。
足音が近づいてきた。は咄嗟に書類を戻して隣の部屋に隠れた。そこはビニールカーテンで囲われていてとても寒い部屋だった。吐く息は白く、皮膚から浸透する冷たさに身震いした。
部屋の中は一見何もないように見えるが、壁に収納された薄い金属板を引くと保存された臓器が出てきた。真空なのかきっちり閉められたビニールにはシールが貼られていて、そこには契約書にあった商品名のような文字が書いてあった。
商品は臓器だった。センセイが売る側か買う側かは分からない。さらに部屋の奥には大きな収納棚があった。それは人の名前が書いてあった。の知らない名前ばかりだったが引き出しを1つ引くと中身は子供の死体。腐敗がやや進んでいる。なぜセンセイはこんなものを保管しておくのか。はすぐに引き出しを閉めた。ますます理解ができない。困惑しているうちにこの部屋の扉が静かに開いた。ここは隠れる場所がない。もう諦めた。扉を開けたのはセンセイだった。
彼は怒らなかった。を部屋から出るように促して冷えた扉を閉めた。何をしていたかも聞かなかった。聞かなくても荒らされたデスクトップを見れば一目瞭然。もずっと黙っていた。
「六花を探していたんだね?」
センセイは何でもお見通しだった。は小さく頷くしかなかった。