第1章 はじまり
「あ……」
「なんだよ」
思ってもみない展開に、言葉につまる。
「え、っと、なんでこんなところに?」
ここはうちからすぐだし、よく来ると言っていた湖とは少し距離がある。
「……別に。ただの散歩」
「そうですか……」
「おまえあれから全然来ねえし」
え、なにその意味深な発言。
また会いたいと思ってくれてたってことでいいの?
嬉しくて頬がゆるみそうになるのをぐっとこらえる。
いやいや自意識過剰の勘違いだったら恥ずかしい。
落ち着け私。
「俺、こっちだけど」
彼はそう言って私と同じ進行方向に視線を向けた。
「わ、私も!」
食い気味に答える私をみて少し笑うと、彼はリードをひいて歩き出す。
これは散歩のお誘い、ってことでいいんだよね?
なんてわかりにくいんだこの人は。
「なぁ、おまえ名前は?」
「名前を聞きたいならまず自分から名乗るのが礼儀なんじゃない?」
(違う、こんな返事がしたいんじゃないのに!)
浮ついた心を隠すように可愛くない言葉しか出てこない自分にがっかりしていると、彼は少し驚いた顔をしながら言った。
「おまえやっぱり……」
「え?」
「いや、なんでもない。俺はアラン」
「私は。アランって呼んでもいい?」
「ああ」
遂に名前がわかった。
ゆるゆるに緩みそうなほっぺたを、なんとかこらえて隣を歩く。
私たちはこうしてお散歩仲間のような関係になったのだった。