第14章 Tears!〈遠坂 雪音〉
『…⁉︎』
急に顔に熱が集まる。何で⁉︎
「答えは聞かなくても良さそうだな」
『ま、まだ混乱してて…』
「取り敢えず、落ち着くまで待ってやる」
『は、はい…!』
夕焼けの風は案外涼しくて、火照った頬を覚ますには丁度良かった。
『剣城君』
「?」
『好き…です』
ポニーテールが揺れる。恥ずかしさで剣城君の顔をはっきりと見る事は出来なかった。
「雪音」
『は、はいっ…!』
フッと笑う姿が格好良すぎて、さらに熱くなってしまう。名前で呼ばれるなんて。そんなの、ずるいよ。
『つ、剣城君、帰りましょうか!』
「…」
『剣城君?』
「名前」
『あ、う…』
急に意地悪になる。でも不思議と嫌だとは思わない。何で何だろう。
『京介…君…?』
「帰るか。雪音」
『はい!』
当分、名前で呼ぶ事には慣れなさそうだけど、それでも。好きって気持ちに気付けたのが凄く嬉しかった。
『明日は雷門に集合でしたね』
「ああ。迎えに行く」
『え、ええ⁉︎良いんですか⁉︎』
「ああ」
『ありがとうございます!』
ふわりと風が過ぎていく。好きになるって見える世界が変わる。全部がキラキラ輝いて何気ない風景まで綺麗に見える。
「雪音。リボンがズレてる」
『あ』
「後ろ向け」
『は、はい!』
剣城君は器用な人だ。私より器用な所もきっとあるだろう。
「直った」
『ありがとうございます。剣城君』
「京介」
『きょ、京介君…』
「上出来」
ポンポンと頭を撫でられると自然に笑顔になってしまう。魔法の手だ。
『京介君は、本当は凄く優しい方なんですね』
「いや別に…」
『そういう所も大好きですよ。京介君』
後ろを向いて微笑めば、またさっきと同じ様に優しい感覚が唇に降り注ぐ。キスをする度に胸がキュっとなる。
「ゆ、雪音…ちゃん…」
『ひ、ヒロトさん⁉︎』
「そ、その子は…!」
『京介君。ご紹介しますね。私の父と言っても過言でない存在で、お日さま園の経営をして下さっている、吉良 ヒロトさんです』
「宜しくお願いします」
『ヒロトさん。此方、私のチームメイト兼彼氏…の剣城 京介君です』
彼氏って紹介するのは、ちょっと恥ずかしい。けど、ヒロトさんはレジ袋を地面に落としたまま硬直している。
「あれ?ヒロト君、どうしたのって…雪音ちゃん?お帰り!」
『瑠璃さん。お帰りなさい!』