第12章 Unknown!〈栗花落 菖蒲〉
『お待たせ』
「うん、お帰り」
何ともソワソワして落ち着かない様子だ。まぁずっと入院生活って言ってたし、女の子の部屋とか行った事無いのかもね。
「菖蒲って蓮華ちゃんと一緒の部屋じゃないんだね」
『中学になってからは部屋別々になったかな。流石に勉強集中しなきゃいけないし』
「菖蒲らしい」
『そう?』
「でも結構女の子らしくて安心した」
『父さんみたいな事言わないでよ。これでも一応女子だから』
「それは勿論分かってるよ!」
確かに姉さんには良く言われる。菖蒲の部屋は割に女の子らしいって。一応可愛い物とか普通に好きなんだけど…。
『そういえば、聞かせてよ。私の記憶吹っ飛んでた時の話』
「え…」
『嫌なら良いけど』
「…菖蒲はダンス部に入ってたよ」
『へぇ…』
私がダンスか…。意外だな。
「僕もそんなに話してないから、パラレルワールドの菖蒲は良く分からないな」
『そっか。それで、太陽は今サッカーを取り戻す旅に出てるんだっけ』
「そうだよ。雷門の皆とそして雪音ちゃんも一緒に」
『頑張ってきなよ。私も手伝える事があったら手伝うから』
「うん!この前は三国志の時代に行ってきたんだ」
『は?』
三国志の時代って…まさかタイムスリップしてる訳⁉︎
「僕達はまずは最強のイレブンになる為に偉人の力を求めて旅をしてるんだ」
『え、羨ましい。私も行きたい』
「え」
『私も頼んだら連れて行って貰えないかなぁ』
「そんなにタイムスリップしたいの?」
『したいよ!ローマ帝国時代に行きたい!』
「お、おぉ…」
『でも、邪魔になっちゃうし…やっぱり諦める』
「あはは!菖蒲って歴史好きなんだね!」
確かに歴史の授業は大好きだ。地理よりも大分面白い。
『そうだ、太陽。言うの忘れてた』
「え、何?」
『元に戻してくれてありがとう』
そのままギュッと抱き締めた。感謝の気持ちを込めて、少し髪を撫でる。すると、啜り泣く声が聞こえた。
「もう…戻んないかと思った…!」
『うん』
「お願いだから一人でどっかに居なくならないで」
『うん…』
きっと怖かったんだ。今迄当たり前に話していた存在が、いきなり真っ白になってしまう。そんなの…嫌だよね。
『もう、大丈夫だから』
「うん…」
ふと目線を太陽の手に移すと、プロジェクトの時に買ってもらった玉簪が握られているのに気が付いた。