第12章 Unknown!〈栗花落 菖蒲〉
ーー翌日
「菖蒲ちゃん!」
『雪音。どうかしたの?』
「雨宮 太陽君って方知ってますか!」
『太陽?うん。知ってるけど…』
「た、太陽君とは何時知り合いましたか?」
『えーっと…四月、だったかな』
「ふぅ…」
『で、そんな事聞いてどうしたの?』
「い、いえ!私、そろそろ行かなくてはならないので!」
『ちょ、ちょっと雪音!』
雪音がそれだけ言って去ってしまった。一体何があったと言うんだろう…。
「菖蒲!」
『太陽。どうしたの?そんなに血相変えて…』
「戻ったぁ…!」
『え、ちょ、ちょっと…!』
いきなり抱きついて来たからびっくりしてしまう。一体何があったんだか。
「本当…良かった…」
『何があったの?』
「そっか…菖蒲は記憶がないんだもね」
『記憶が無いって…今まで普通に過ごしてましたけど…』
「聞いて欲しいんだ」
それから太陽にこれまでの経緯を教えて貰った。私が一度サッカーを消された事も、自分太陽の事を綺麗さっぱり忘れていた事も。
「だから…」
『太陽。うち、来る?』
「え?」
『姉さんは今日は遊びに出掛けてるから、帰って来るまでなら良いよ』
「い、いやでも…そう言うのは…」
『大丈夫。太陽が期待する様な展開は絶対無いから』
「そこまで打ち砕かなくても…」
『で、来るの?来ないの?』
「行く!」
元気よく言うもんだから若干驚いたりもしたけど、取り敢えず自分の家に向かって歩き出した。
『じゃあ私は太陽の事忘れてたんだ』
「うん」
『へぇ…まぁ、それもそれで良かったかもね』
「えっ…」
『太陽煩いから』
「え、本当に…?」
『冗談』
「ど、何処までが?」
『さあね』
絶対言ってあげない。此処で何か言ったらまた調子乗るし。
「菖蒲の家に行くの初めて!」
『そりゃあ呼んだ事ないしね』
「今度僕の家にも来てよ!」
『まぁ、余裕があったらね』
「え〜」
暫く歩くと段々家が見えてくる。帝国には珍しい庶民のお家。
「菖蒲のお家って此処なんだね」
『まぁ…普通の住宅街かな』
鍵を開けて中に入る。誰も居ないので静まり返っているが、姉さんが出かける時にエアコンを点けて行ってくれたのだろう。
『こっち』
「うん」
『ちょっと待ってて。今お茶持ってくる』
「ありがとう」
鞄を置いて台所に向かった。コップを二つ持ってお茶が入ったピッチャーを同時に持っていく。