第12章 Unknown!〈栗花落 菖蒲〉
菖蒲の花の模様が玉に彫られていて、かなり凝ったデザインだったのが窺える。そうだ、サッカーを消される前に、簪を落としたんだった。太陽が拾っててくれたんだ。
『簪、太陽が拾っててくれたんだね』
「うん」
『結構気に入ってたのに、落ちちゃったから、申し訳ないなって』
「菖蒲、そういう所真面目だよね」
『そう?折角送ってくれた物なのに、落としちゃうと何だか悪い気しない?』
「う〜ん…」
『まぁ良いや。落ち着いた?』
「うん」
『お茶飲みなよ』
コップに入ったお茶を太陽に渡した。一気に飲み干して、少しは落ち着いた様だ。頬に涙の跡が薄らと付いていた。
『うちのお父さんとお母さん、何時も帰ってくるの10時過ぎだから、ご飯食べてく?姉さんもそろそろ帰ってくるだろうし』
「菖蒲ー!ただいまー!」
『ほら』
「良いの?」
『うん、どうせ二人も三人もそんな変わらないし』
「只今菖蒲ー!ってあれ?雨宮君?」
「蓮華ちゃん、こんにちは」
「菖蒲がねぇ〜ふぅ〜ん…?」
『別にそういうのじゃないから。あんまり揶揄うとご飯抜きにするよ』
「やだ〜!菖蒲様ぁ〜!」
こういう時だけ調子良いんだから。何時ものことなのであんまり気にしてないけど。
「雨宮君ご飯食べてきなよ!菖蒲の美味しい料理が食べられるよ〜?」
『まぁ、どっちでも良いよ?親御さんが門限に厳しいなら無理する事ないし…』
「ちょっと待ってて。電話してみる」
太陽がスマホを取り出して電話をし始める。声色から伺うに、大丈夫そうだけど…やっぱり心配なものは心配だからなぁ。
「大丈夫だって!」
『そっか』
「けってーい!」
三人で食べるって事、あんまり無かったから結構新鮮かも。太陽の事は姉さんも知ってるし、私も知ってるから気まずく無いし。
「ご馳走様!すっごく美味しかった!」
『それなら良かった。まだ明るいっちゃ明るいけど、気を付けて帰ってね』
「うん!ありがとう!」
「じゃーねー!」
「うん」
太陽を見送った後、食器を片付けて部屋に戻る。
「菖蒲は、本当は雨宮君の事手伝いたいんじゃない?」
『でも、マネージャーならもう十分らしいし、今更行ったところで邪魔になるだけだもん』
「菖蒲の方が絶対働いてくれると思うけどなぁ」
『ベースは雷門だから。でも、やれる事ならやるよ』
「頑張れ菖蒲。お姉ちゃんは応援してるぞ!」