第12章 Unknown!〈栗花落 菖蒲〉
そう思いつつも明日を迎えてしまう自分がいた。
「菖蒲」
知らない人の声だった。後ろを振り向くと、何処かで見た事のある様な少年が立っている。制服を見ると、恐らく姉さんと同じ中学校の新雲学園だ。
『誰ですか?』
「僕は雨宮 太陽」
『ごめんなさい、身に覚えが無いんですけど…。何処かで会いました?』
「うん、とっくの昔に会ってるよ。今日は伝えたい事があって来たんだ」
『伝えたい事?』
「元の菖蒲を取り戻す」
『元の…私?』
この人は私がずっと感じている違和感について知っているのだろうか。いや、私の何かを知っているに違いない。
『私の事…知ってるの?』
「勿論」
『どうして…?』
「病院で、会ったんだよ。僕と菖蒲は」
四月の病院で感じた強烈な違和感。その正体は君だったんだ。
「ごめん。そろそろ時間だ」
『え、うん』
「絶対に元に戻してみせるから」
それだけ言って戻っていった。やっぱり知ってる。私は…君の事ずっと前から知ってる。だから最近ずっと変な感じがしてた。間違った道を歩いている様な…。
「菖蒲ちゃん」
『雪音…ってその服は…?』
「行ってきます。菖蒲ちゃん」
『え?何処に…?』
「菖蒲ちゃんを取り戻しに」
さっきの男の子と同じ事を言ってる。雪音も何か知っているの…?
『私を…』
「待っていて下さい。サッカーも菖蒲ちゃんも…全部取り戻してみせます」
サッカーは雪音が得意なスポーツだった。確かに禁止令は出て、不満に思っている人もいるだろうけど、取り戻すなんて話の大きさが尋常じゃない。
『ま、待って雪音!』
「時間が無いので、行ってきます!」
『雪音!』
次の日、雪音は学校に来なかった。どうやらまたバレエの遠征に行くとか何とか…。確かに雪音はバレエも得意だった。お日さま園で雪音が瑠璃さんにバレエを教えて貰っていた所を何度か目にしている。私も実際少し教えて貰った事があった。
「菖蒲ー!部活始まるよー!」
『う、うん!今行くー!』
友達に呼ばれて我に帰った。そうだ、もうそろそろ部活が始まってしまう。折角見つけた「楽しい事」なんだから、ちゃんとやらなくちゃ。
「どうしたの?菖蒲。ぼーっとして」
『ううん、何でもない』
「そっか。なら良いけど。そろそろ始まるし、二体行くよ」
『うん』
少しモヤモヤした気持ちのまま着替えて第二体育館へ向かった。