第10章 Cheerfulness!〈遠坂 雪音〉
『私はこのシートを記入しなくてはならないんです』
「それは?」
『帝国学園で利用しているシートです。此処に練習中の皆さんの様子を記入していくんですよ』
「凄いわねぇ…」
『教えたいのは山々なんですが…』
「良いのよ!それに大事な事なんだし」
『いえ…』
本当はちょっと行きたくなかった。だって、あんなに女の子が一杯居る中で私がしゃしゃり出たら、きっと凄い目で見られる。
「皆、そろそろ休憩にしましょう!」
剣城君が動くのに合わせて女子達もゾロゾロと移動する。剣城君がカッコいいのは分かるけど…何なんだろう。ちょっとモヤがかかった様な気持ちになるのは。
「遠坂、タオルあるか」
『あっ!はい!ど、どうぞ…!』
「どうかしたか?」
『い、いえ…』
「お兄ちゃんもっとサッカー教えて!」
「今休憩しておかないと後で大変な思いをするぞ」
なんだかんだ言って子供への接し方が優しい。だからこんなに人気があるんだろうな。
『こ、後半も頑張ってくださいね』
「ああ」
「ちょっと、お姉さんはお兄ちゃんの何なの?」
『え、えーと…。お友達、ですかね…』
「なら邪魔しないでよ!べーっだ!」
小学生でよっぽどオマセさんなんだなと思いつつ、少し苦しさも感じた。お母さんに虐げられた時と同じ様な息苦しさ。そのまま少し嫌な思いをしつつも自分の仕事をこなした。やっと午前中のプログラムが終わって、急いで次の学校へと移動する。
「何かあっただろ」
『いえ、別に大した事は…』
「そんな暗そうな顔されても俺が困る」
『あ、後で…話します。お昼食べれば元気になりますから』
「そうか、なら行くぞ」
剣城君に連れられてご飯を食べに来た。お弁当屋さんに頼んで置いたので、手元にはお弁当がある。
「話してくれ」
『昔の話ですよ』
本当に昔だった。私がまだ小学一年生の頃。姉は丁度中学一年になった歳だった。
「今日は雪音の誕生日だね」
『ありがとう!お姉ちゃん!』
姉の名前は遠坂 雪乃。私の大好きなお姉ちゃんだった。ある事故があるまでは。
「それにしても、お父さん遅いわね。6時半には帰ってくるって言ってたのに。何かあったのかしら」
「もう7時になっちゃうよ…」
その時、一本の電話が家に鳴り響いた。
「何かしら。また家庭教師の案内だったら嫌ね」
「かもね」
「はい。え?あ、はい、そうですが…。え…?」