第10章 Cheerfulness!〈遠坂 雪音〉
「次だな」
『は、はい…!』
未だに電車の中は混んだままで、ずっと庇ってくれている。本当にありがとうとしか言いようがない…。
「出るぞ」
『はい!』
扉が開いた瞬間に飛び出した。やっと息詰まった空気から抜け出せた様に感じた。
『あの、ありがとう御座いました!』
「いや、気にしなくて良い。行くぞ」
『はい…!』
鞄を右手に持ちながら剣城君を追った。すると、いきなり剣城君が振り返った。
『?』
「それ、貸せ」
『え?』
持っていた革の鞄をひょいっと取って、持ってくれた。自分も荷物があるのに…何だか申し訳ない…。
『だ、大丈夫ですよ!自分で持てます!』
「良いから行くぞ」
『は、はい…』
暫く歩くと、目的地が見えてきた。校門前で鞄を戻してくれたので、そのまま受け取って先生方を探す事にする。
『あ、あの方でしょうか』
「聞いてみるか」
『はい!あの…こんにちは。サッカー教育プログラムで来たんですが…担当の石垣先生はいらっしゃいますか?』
「私が担当の石垣です。剣城君に遠坂さんね。今日は宜しく」
「宜しくお願いします」
『宜しくお願いします』
「案内するわ。こっちよ」
先生に案内してもらって、体育館に来た。もう既に子供達は集まっている様で、賑やかな声が聞こえてくる。
「中に入ってもらって良いかしら」
『はい』
中に入ると皆キラキラした目で見つめている。皆サッカーが大好きなんだね。
「皆さんから見て左手の方が遠坂 雪音さんです。帝国学院の一年生で、選手としても活躍しています」
軽く会釈をして微笑んだ。私が選手としても活動している事で女子サッカーに少しでも興味を持ってくれれば良いんだけど…。
「そして右手の方が皆さんも良く知っている、雷門中の剣城 京介君です!皆さん、今日は色々教えてもらいましょうね」
私は帝国から持ってきたシートにスラスラと記入していく。剣城君はあまり話さないけど、そこがまた好きな人もいる様で、女子から多いにモテている。
「今日は宜しくね、雪音ちゃん」
『はい、宜しくお願いします』
「雪音ちゃんは選手としても活動しているって聞いたんだけど…」
『はい。ただ、帝国学院には女子サッカー部が無いので、あくまで個人の活動になってしまうのですが…』
「そうだったのね。もし良ければ雪音ちゃんも教えて貰えると嬉しいな」
『いえ…』