第8章 Departure!〈栗花落 菖蒲〉
身構えていたのに、衝撃はさほどなくて、指というよりは別の柔らかい何かが当たった様な気がした。
『え、終わり?』
「うん」
『太陽、本気出してなくない?』
「いやだって、女の子に本気でやっちゃダメだよ」
『優し』
「良いから。行くよ!」
『はいはい』
スーツケースと持ち歩き用のリュックを持って、まずは宿泊先のホテルへ向かった。
『ホテルまで取ってくれるなんて凄いよね。しかも結構豪華なとこだよ』
「もう英語解禁?」
『解禁解禁!こんなとこまでやってたら大変でしょ』
「確かに」
『レビュー見たけど、結構良い所だったし』
「そこまで調べるんだ⁉︎」
『当たり前でしょ。何の為にその立派なスマホ持ってんの』
「うっ…」
ホテルに着いて、まず直ぐに荷物を預ける。初日は、正午からの練習なので、すぐにご飯を済ませて最初の小学校へと向かわなくてはならない。
『ご飯のところに行かないと。ここから近いみたいだし、予約も取ってあるみたいだから、行こっか』
「うん」
中学生が二人で行ってもあんまりおかしくない雰囲気のお店だったから助かった。
『ふぅ…なんだか少し疲れた様な気もする』
「これからだよ、菖蒲」
『分かってるって』
「楽しみだなぁ!またサッカー出来るんだ!」
『良かったね。太陽』
嬉しそうに話している姿は見ていて飽きない。きっと、本当にずっとサッカーをやりたくてやりたくて仕方なかったんだろうなぁ。
「菖蒲は、何かやりたい事はないの?」
『う〜ん、これと言ってまだ見つかってないけど…。でも、高校生になったら本格的に探そうと思ってる』
「へぇ〜」
『中学生じゃ、まだどうしてもやれる事少ないし、高校だと中学に無いような部活が沢山あるでしょ?だからそれに入ってみたいな、とは思ってる』
「そっか、菖蒲に見付かると良いね」
座っていると、料理が運ばれて来て、太陽はすぐに手を付け始めた。
『美味しそうに食べるね』
「うん!美味しい!」
私も食事に手を付け始めた。とっても美味しくて、また機会があればもう一度来てみたいって思える味。
『美味しい…』
カシャ
『えっ…』
「盗撮完了」
『え、ちょ、消してよ!』
「やーだよー!」
『…もう』
どういう顔してたか分かんないから困るんだけど。変な顔とかしてたらまじで恥ずかしい。
「ご馳走様でした!」
『早い早い』