第46章 Graduation!〈遠坂 雪音〉
決して楽な人生じゃなかったと思う。この年にしてはいろいろなことがありすぎた。けれど乗り越えてこの場にいるのだから、過去のことも悪くないと今なら笑って言える。
『大学生になっても、また手を繋いで帰れるといいなあ』
「できるだろ、いつでも」
『うん』
京介はスポーツ推薦で別の大学に受かった。幸い遠くなく、京介の自宅から通える距離らしい。
「迎えにも行けるだろ」
『来てくれるの?』
「ああ」
『じゃあ私も行こうかな』
「ダメだ」
『なんでよ…』
自分は良くて私にはダメとは酷いなと口を尖らせて拗ねてみた。
「他の男に声を掛けられたりしたら困るだろ」
『や、やきもち…ってこと…⁉︎』
「うるさい」
どうやら図星のようだった。可愛い理由なので許してあげようという気持ちが出てくる。
『分かったよ。可愛いヤキモチに免じて許してあげる』
無言で顔を逸らした。照れ隠しが可愛らしい。
「早く行くぞ」
手を繋いだまずんずんと歩幅を広めて歩いていく。京介だって大分初心な方なのだ。
『あっ、美味しそうな匂いがする!』
「肉の臭いなのは間違いないな」
『何用意してくれてるんだろ。お腹空いてきた!』
お日さま園の扉を開いて大声で言った。
『ただいま〜!』
「お邪魔します」
木枯らしそうもだけど、自分にとってはお日さま園も帰る場所である事には間違いない。今はここに住んでいる訳ではないけど、小さい頃はここで育ってきた。思い出の場所だ。
「おかえり、2人とも。ハンバーグ作ったよ!手を洗って食堂に来てね」
瑠璃さんが顔を出す。菖蒲たちは先に到着していたようだ。靴が置いてある。
『ハンバーグだって!京介当たったね』
「まあな」
鞄を玄関脇に置いて、洗面所へ向かった。子供が多いから洗面台は少し低めに設計されている。自分たちにとっては少し低すぎるけれど、それも成長の証拠だった。子供の数が多いので洗面台の数も多く、私達だけなら待つことなく同時に手を洗える。
『早く行こう。他の子達に食べられちゃってるかもよ!』
「そんなわけあるか」
軽口を叩きながら、食堂へ早足で向かった。卒業シーズンということで、飾り付けも豪華になっている。
「お二人さん、早くいらっしゃい。たくさん作ったらおかわりどんどんしてね」
瑠璃さんはお料理も上手でヒロトさんのお墨付きだ。今日の料理も美味しそう。