第46章 Graduation!〈遠坂 雪音〉
『な、なに、今日はどうしちゃったの…⁉︎』
「なんとなく」
絶対何かあると思った。なんとなくとか曖昧な理由でやるわけがないし、かと言って思い当たる節もない。
『もう…なにそれ』
満更でもないのは秘密だ。どうせ言ったら調子に乗るのは分かりきっていたから。
「もう少し」
『えっ…』
グッと腰に手を回されて、またキスをした。今日だけでありえないくらいキスをしている。慣れていない自分にとっては、もういっぱいいっぱいだった。
『す、ストップ…もう無理…』
腕に力を込めて引き剥がした。自分だけ息が上がっていて、京介は飄々としている。
「大丈夫か」
『うん…大丈夫』
京介の匂いがずっと近い気がする。包まれているかのように少しだけ、ふんわりと鼻をくすぐった。
『本当にどうしたの?いつもはこんなにしないのに…』
「他の女に時間を割くくらいなら、お前と一緒にいたかった」
『えっあっ、えっ⁉︎』
直球どストレートの言葉に驚いて言葉が上手く出てこなかった。でも、自分といたいと思っていてくれることが嬉しくて、少し顔が熱ってしまった気がする。
『そ、そう、なんだ…』
出てきた言葉があまりに情けない。何か上手く言いたかったが、頭が回らない。でも何か言わねばと口を開いてみた。
『えっと…その、私も京介と、いたい、かな』
「そうか」
如何ともし難い空気が流れ始めた。先ほどの甘かった雰囲気が台無しである。どうするのが良いのか分からず、卒業証書を握る手を強めた。
『この空気…どうしよう…ね』
「ふはっ…!」
耐えきれなかったのか、京介が吹き出して笑った。やっといつも通りのような雰囲気に戻った気がする。自分も何故だか笑みが溢れてきた。
『はー、おかし。もう!凄いびっくりしたんだから』
意趣返しと言わんばかりに京介の両肩に手をかけてキスをした。やられっぱなしは性に合わない。
『仕返し!ほら、早く行こう!お日さま園で瑠璃さんとヒロトさんが待ってる』
「そうだな」
校門まで競走でもしようかな、なんて考えながら元気よく走り出した。春先の風が気持ちいい。澄んだ空気が肺を満たすのが分かった。
「雪音」
『なあに』
「一緒に行こう」
『うん、私もそう言おうと思ってた』
校門からは手を繋いで歩いた。京介に出会ってから、今日までの事をたくさん思い出してみた。