第45章 Curse!〈栗花落 菖蒲〉
『貴方がそう言うなら、遠慮なくもらう』
「そう言っていただけると助かります」
子供の頃に、似た衣装を見たことがあった。舞を踊る時、この家の人は必ず丈が長い着物を着ている。裾引きって呼んでいたような気もするけれど、合っていたかは覚えていなかった。
「できました」
『この衣装、本当に綺麗だね』
「ええ。中庭がよく見える場所へ行きましょう。この衣装は汚すわけにはいきませんからね。」
『うん』
雛菊さんは私の身体から出て、私の隣に来た。もう最後の時を決意はできていると言わんばかりに凛々しかった。
「踊る舞は、分かりますね」
『うん。「浄の舞」でしょ?』
「ええ。そうです。頼みましたよ。それから…愛しい人と幸せに」
『ふふ、言われなくてもそうするつもりだから』
中庭がよく見える部屋にやってきた。雛菊さんは中庭にいる旦那さんのところへ戻って行った。
『太陽、太陽はこっちの部屋に』
「分かった」
雛菊さんと旦那さんは手を繋いでいる。これで全て終わらせるんだ。栗花落家の呪術も、翡翠の髪も。
『いくよ…』
不思議と身体が覚えていた。小さい頃、栗花落家で嫌と言うほど習わされた記憶がある。染みついた記憶はあまり抜けてくれなかったが、その事が今になって役に立つとは思わなかった。祖母に毎回ダメ出しされて嫌な気分ではあったが、着実に上達しているのは分かっているので、一概に嫌いとは言えなかった。
「さ、行きましょう。もう十分でしょう?」
「そうだね…ごめん、雛菊。それに舞を踊ってくれたお嬢さん」
「ありがとう、菖蒲、それと菖蒲の大切な方。2人ともお幸せに」
2人がとても感謝してくれていることが伝わってきた。踊っていてこんなに嬉しかった事はない。
『…ふぅ』
「終わった…の?」
『多分。全部…終わった』
舞を踊り終えて、へたり込んでしまった。ライオコット島であの人に事実を告げられてから、殆ど気を張っていたのでだいぶ疲れてしまったらしい。
「菖蒲!大丈夫⁉︎」
『うん…大丈夫…。ありがとう、太陽が来てくれてなかったら危なかった。でも、どうして?』
「心配だったから。菖蒲のお父さんに頼んで連れてきてもらったんだ」
『え、じゃあお父さんが今待ってるって事⁉︎』
「あっそうだった!」
思い出したように言うものだから、お父さんがちょっと気の毒だった。
「帰ろう、菖蒲」