第45章 Curse!〈栗花落 菖蒲〉
何か上るのに使えそうなものを取ってくるからと、いつもの笑顔が、今は死ぬほど、眩しい。
「愛しい人ね、菖蒲」
『そうだね…雛菊さん』
やっぱり、私達はよく似ているらしい。
「持ってきたよ。これ使って!」
『はーい!…あ、その前に、貴方の旦那さん、持っていかないとね』
遺骨を全て拾い上げて脚立の場所へ向かった。成人もしてない女の子が持っているのはあまりに不吉すぎるが。
「良かった。菖蒲…え?それ…」
『あ、そうだね…これ、今から必要なの』
「それに、その着物…」
『雛菊さんに貰ったの』
「ひな…ぎく…?」
『雛菊さん…とその旦那さん、太陽には見えないかな』
「えっ!何⁉︎見えるとか見えないとか!」
顔を真っ青にして怖がっている様を見ると、実は本物の幽霊は怖いのかもしれない。
『ねぇ、雛菊さん。貴方の旦那さんの遺骨、どうするの?』
「舞を、踊らなくては」
『舞?』
「ええ。この家に伝わる舞を。貴方の身体をまた借りる事になりますが…」
『その必要はないよ。私、踊れるから。何を踊るのかも、分かるよ。私が貴方たちを送る為に、踊りたいの。良いでしょう?』
「分かりました」
納得したように雛菊さんは頷いた。旦那さんも嬉しそうに笑っている。
「あ、菖蒲、今誰と…話してたの?」
『じゃあ、太陽には見えてないんだね。まあ良いや。中庭に来て』
骨壷に見立てたものに旦那さんの遺骨を入れて、中庭に持って行った。
「菖蒲、少しだけ身体を借りても?」
『良いけど、舞は…』
「いえ、そうではなく、衣装に、着替えさせて下さい」
『うん。分かった。太陽、ちょっと行ってくる』
「え、ちょっと⁉︎」
雛菊さんが中に入ってくるのが分かる。太陽を置き去りにして、また私が使っていた部屋に向かった。
『此処に、衣装があるんだね』
「ええ。貴方に来てもらう衣装は私の間違いでなければ此処にあるはずです」
『うん』
迷いなく箪笥に近づき、三段目から綺麗な衣装を取り出した。これもなんとかカビなどの目立った損傷はない。
「これに着替えましょう」
『うん』
雛菊さんはまた慣れた手付きだった。最初に着替えた時は私も恥ずかしかったが、今は恥ずかしがっている余裕なんてなかった。
『わぁ…この衣装も素敵…!』
「この衣装も、貴方が貰って下さい。なんならこの部屋の着物、貴方が貰ってくれると助かります」