第45章 Curse!〈栗花落 菖蒲〉
『良いよ。お話し相手は居た方が楽しいし』
「ええ、そうですね」
今日は楽しい風呂になりそうだ。
あれから、屋敷の中で雛菊さんの旦那さんを探し続けて2週間が経過した。一向に手掛かりがなく、両親や太陽、雪音と連絡する度に不安にさせてしまっているのが申し訳ない。
『どうして、見つからないんだろうね』
「やはり、何かがおかしい気がするのです」
廊下を歩きながら雛菊さんと話をしていた。造りが古く、廊下を歩く度に若干軋んだ音がする。
『やっぱり、この家古いね。この廊下歩く度に音が鳴る…し⁉︎』
油断していた。まさか廊下に穴が開くとは思っていなかった。すぽんと落ちて、尻餅を付いた。
「菖蒲⁉︎大丈夫ですか⁉︎」
『だ、大丈夫…。ここ、真っ暗で…』
とにかく灯りが欲しくて、着物の帯に仕込んでいたスマホを取り出した。緊急の為、スマホのライトで周囲を照らす。
『あ…』
「どうかしましたか⁉︎菖蒲!」
『いた…いたよ!雛菊さんの旦那さん!此処に、いる!』
「え…?」
雛菊さんは下に降りて、旦那さんの遺骨に駆け寄った。
「正良さん…!」
雛菊さんが呼び掛けると、旦那さんの遺骨から雛菊さんと同じような霊体みたいなものが出てきた。
「雛菊…雛菊なのか…?」
「正良さん…!探しました…!」
漸く出会えたのだ、2人。長い時を経て、やっと。幽体でも関係なしに愛しそうにキスをしていた。
「あ…ご、ごめんなさい。菖蒲もいるのに…」
「君は…雛菊によく似ているね」
『雛菊さんにも、同じこと言われました』
「菖蒲、私達からの最後のお願いがあります」
『何?』
「この遺骨を持って、中庭に来て欲しいのです」
『分かった…って言いたいんだけど、まずは上に上がる方法を考えないと…』
会いた穴が頭より上で手も届かない。こうなったら誰か呼ぶしか…。
「すみませーん!」
『この声…!』
間違いない。太陽の声。けれど、どうして此処に…?
『太陽!扉を壊して!中に来て!』
「菖蒲?此処にいるんだね!」
扉をガタガタと動かしている音が聞こえた後、勢いよく扉が外れる音がした。
『太陽、此処!』
「菖蒲!どこ?」
『廊下!穴が空いちゃって、上に上がれないの!』
「見つけた!」
『太陽!』
眩しかった。一段と眩しかった。必要な時に、光をくれる、大好きな人。
「待ってて!」