第45章 Curse!〈栗花落 菖蒲〉
山の遠くの方を見ながら、慈しむように愛おしそうに、語り出した。
「夫は、夫の母から怒られる度に私の所に来てはそれはそれは泣きじゃくったものです。そしていつも私はあそこの菜の花畑に連れ立って慰めていました。そんな夫が可愛くて可愛くて仕方なかったのです。夫とは生まれてくる前から結婚が決まっていましたが、苦ではありませんでした。お互いがお互いを大好きで想いあっていたからです」
『素敵だね…』
「しかし私が病を患ってからはそうもいかなくなりました。夫は人が変わったように奮い立ち、私を何とか生かそうと生き急いでいるようにも見えました」
『そうだね…大好きな人がいなくなるのは、辛いね』
「私も、夫と同じ立場であったら、同じようにしたかもしれません。でも、私はただ、死ぬその時まで、夫の笑顔を見て、沢山の思い出を作りたかった。それを言えば、夫の生きる意味が無くなってしまうかもしれないと思ったから、言えなかった。辞めてとしか、言えなかった」
『じゃあ、それを伝えなくちゃね』
「え?」
『私が貴方の旦那さんを見つけるから、貴方はちゃんと自分の想いを伝える事。言葉にしなくちゃ、伝わらないんだもの、どうしたって私たちは』
「…そうですね」
覚悟を決めたように彼女は微笑んだ。美しかった。自分も、あんな風になれたら良いのにと思うけど、おそらく無理だ。
「では貴方も、貴方の大切な人の元へ早く帰る為にも、見つけなくてはいけませんね」
『太陽の事、知ってたの?』
「ええ。貴方に大切な人がいる事は知っていました。その人を置いて今此処にいることも」
『うん。会いたい。愛している人に、早く会いたい』
「私と貴方は、同じみたいですね」
『そんな事ない…ないよ』
貴方みたいに美しくなれない。分かっているのだ。貴方みたいに花が踊るような、そんな綺麗にはなれない事。
「此方へ来て」
自分の様子を見て、彼女は私に付いてくるように言った。
『此処、私の部屋…』
「元は私が使っていた部屋です。そこに立っていて下さいね。貴方の身体、少し借りますから」
そう言うと、覚悟もなってないうちに私の身体にしゅるっと入り込んで何やら奥の方へ歩き始めた。
『えっ、ちょっと、何⁉︎』
「安心して、そのまま」
そう言うと、箪笥を何やらあさって、1着の着物を手に取った。すると自分では意識せずに自分の衣服が脱がされていく。