第45章 Curse!〈栗花落 菖蒲〉
早く帰らなければ恋人を心配させる事になる。だからなるべく早く彼女の夫を見つけなければ。
『この家の見取り図ってある?私正直あまりこの家に詳しくないから』
「この机の上の紙がそうです。目を通してみて下さい」
『ありがとう』
栗花落家はかなり広い。自分が行ったことがない部屋もまだある。流石豪邸と言わんばかりの造りだ。
『多分、雛菊さんは殆どの場所は探したんでしょ?』
「ええ。特に夫が使っていた部屋は入念に探しましたが遺骨は見つかりませんでした」
『うーん…そっか。でも取り敢えず今日は少し掃除しても良い?このままじゃちょっと不便だし』
「そうですね。私は特に手伝いができる訳では無いですが、お部屋についてなら多少説明ができます」
『じゃあその説明を聞きながら掃除する。旦那さんとの思い出も聞かせて』
「ふふ、はい」
久しぶりに誰かと話せるのが嬉しいのか、頬を桃色に染めて嬉しそうにしていた。やはりずっと旦那さんの事が大好きらしい。
『まずは居間かな。ここでご飯食べたりすると思うから、ここを綺麗にしなきゃ。でもそんなに埃溜まってないね。』
「貴方のお父上が偶にここに来て掃除していましたよ。私の事は見えていないようでしたが」
『え、お父さんが?』
「ええ。捨てるにも捨てられず困ったような顔をして…此処は机をさっと拭けば大丈夫でしょう。次は貴方の寝る場所ですね」
『うん。それにしても久しぶりだなあ。1人でいると尚更広く感じるね』
「そうですね。昔はたくさんの人がこの家に住んでいました。使用人もいた者ですから、使用人が寝泊まりする部屋もあるのですよ。今は客間として使われていますが」
『そうだったんだ。私が生まれた頃には家族とか親戚とかしかいなかったな』
あまり良い思い出がない故に居心地がいいかと言われればそうでもないけど、雛菊さんにとっては思い出が詰まったお屋敷なんだろうな。
「布団もカビは生えていませんね。念の為天日干しをしておくと良いでしょう」
『うん、そうする』
2階に上がって、バルコニーの柵に布団を掛けておいた。今日はいい天気だ。
『貴方の旦那さんはどんな人?』
「え?」
『聞きたいの、貴方と旦那さんの思い出』
「そうですね…夫はそれはそれは泣き虫でした」
『えぇ⁉︎想像できないけど…』
「そうですよね…でもそうだったのです。大人になるまでは」